レッドハットやターボリナックスといった有力Linuxディストリビュータが,企業システム市場の開拓に本格的に取り組み始めた。システム・インテグレータやハードウエア・メーカーを介した「間接サポート」を,企業ユーザーに提供する体制を構築する。そのために,それらのサポート・ベンダーを後方から技術支援する。サポート・ベンダーを対象としたLinuxディストリビュータ公認の教育講座や技術者認定制度も始めた。

表1●主要なLinuxディストリビュータが提携先のサポート・ベンダーを介して企業ユーザーに提供する間接サポートの体制
 主要なLinuxディストリビューション(配布パッケージ)を販売しているLinuxディストリビュータが,企業ユーザーを対象にしたサポート体制の整備を急ピッチで進めている。特に目立つのは,Linuxディストリビュータ自身による「直接サポート」ではなく,システム・インテグレータやハードウエア・メーカー,さらにその販売店まで含めた「間接サポート」の体制を構築する動きが活発になってきたことだ。

 先行していたレーザーファイブ(東京都千代田区)に続いて,レッドハット(東京都千代田区)が1999年11月8日から,ターボリナックス ジャパン(東京都渋谷区)が2000年1月28日から,提携先のサポート・ベンダーを介した企業ユーザー向けの間接サポート・サービスを開始した(表1[拡大表示])。米カルデラ・システムズの国内販売代理店であるネオナジー(東京都千代田区)も,2000年2月末にサーバー向けLinuxディストリビューション「OpenLinux eServer2.3日本語版」を出荷するのに合わせて,企業ユーザー向けの間接サポートを始める。

サポートの品質を確保する

 Linuxディストリビュータは提携先のサポート・ベンダーに対して,一般ユーザーには公開していないLinuxディストリビューションの技術情報を提供したり,質問に対する回答や不具合の対処といった技術支援を有償で行う。サポート・ベンダー向けに,Linuxディストリビュータ公認の教育講座や技術者認定制度も始める。

 サポート・ベンダーは,このようなLinuxディストリビュータの後方支援を受けて,企業ユーザーに有償でサポート・サービスを提供する。たとえば,各種ソフトウエアの動作設定に関する質問に回答したり,システムの稼働後に発生した問題の原因を究明し,必要なら対処する。このように企業ユーザー向けのサポート・サービスは,Linuxディストリビューションを「インストールした後」が対象となる。サポートの内容や料金は,個々のサポート・ベンダーが独自に設定する。

 これまでも,特定のLinuxディストリビューションを対象に有償サポート・サービスを提供するシステム・インテグレータやメーカーは少なくなかった。Linuxは技術情報が公開されているので,必要な情報を探すノウハウやソース・コードを読みこなす力があれば,自力でサポート・ビジネスを始められるからだ。

 だがこのやり方だと,サポート・ベンダーの力量によってサポート品質にばらつきが出る。いいかげんなサポートによって,サポート対象のLinuxディストリビューションの評判が悪くなる可能性もある。そこでLinuxディストリビュータは,自社製品に対する最低限のサポート・レベルを確保するために,サポート・ベンダーの後方支援に乗り出したわけだ。

レッドハットは標準商品を設定

 レッドハットは1999年11月から,サポート・ベンダー向けの技術支援と技術者認定制度をスタートさせた。毎月2回,認定試験を実施する。ソフトウエアの動作設定方法や,必要な技術情報を探すノウハウなど,サポート技術者として最低限のスキルを試験する。合格した技術者は「RHCE(レッドハット認定エンジニア)」として認定する。

 レッドハットはこの制度を利用して,サポート・ベンダーを認定する。サポート・ベンダーがレッドハットから直接,技術支援を受ける1次ベンダー「認定マスターSIディストリビュータ」になるためには,RHCEを5人そろえなければならない(表1[拡大表示])。この認定マスターSIディストリビュータから技術支援を受ける2次ベンダー「認定SIリセラー」になるためにもRHCEが2人必要だ。この方針についてレッドハットの平野正信代表取締役は次のように説明する。「当社はLinuxディストリビューションの直接販売はしないので,サポート・レベルを維持するために認定制度を利用せざるを得ない。Linuxはオープン・ソースなのに,マイクロソフトと同じような販売代理店認定制度を採用していると批判する人がいるが,まねをしているわけではない」。

 レッドハットから認定を受けたサポート・ベンダーは,レッドハットがサービス内容と料金を規定した標準のサポート・サービス商品「公認Red Hat Linuxサポートパッケージ」を企業ユーザーに販売できる。認定SIリセラーが同商品を販売すると,売り上げの何%かが認定マスターSIディストリビュータに,そのまた何%かがレッドハットに入る仕組みになっている。同商品のサポート内容を表2[拡大表示](次ページ)に示す。参考のため,ほかのLinuxディストリビュータが企業ユーザーに提供している直接サポートの内容も示した。

 レッドハットから認定を受けたサポート・ベンダーは独自商品も販売できる。システム構築を主体にする2次ベンダーは,企業ユーザー向けのサポート・サービスを認定マスターSIディストリビュータに委託することもできる。メーカーやメーカー系の販売会社が独自のサポート・サービス商品を販売する場合は,RHCEはいなくてもよい。

別の道を行くターボリナックス

表2●主要なLinuxディストリビュータが企業ユーザーに直接提供するサポート・サービス。直接サポートを行っていないレッドハットは,同社がサービス内容を規定している間接サポート「公認Red Hat Linuxサポートパッケージ」の内容を示した
 ターボリナックス ジャパンは,1999年12月16日に技術者認定制度「TurboLinuxエデュケーションプログラム」を,2000年1月28日に新しいパートナ制度「TurboLinks」を発表した。2月から技術者教育を開始する。内容は,Linuxディストリビューションのインストールやネットワーク関連ソフトウエアの動作設定など,基本的なシステム構築とサポートに関するもの。認定試験の合格者は「Turbo-CE(Turbo Linux認定エンジニア)」と呼ぶ。

 同社も,技術者認定制度によってサポート・ベンダーを認定する。サポート・ベンダーが,ターボリナックスからソフトウエアの動作設定に関する技術支援を受けられる「認定SIゴールドパートナー」になるためにはTurbo-CEが1人,ソース・コードまで含めた技術支援を受けられる「オーソライズド・サポートセンター」になるためにはTurbo-CEが3人必要になる。

 サポート・ベンダーが企業ユーザーに販売するサポート・サービス商品の内容は,個々のベンダーが自由に決められる。レッドハットと違い,サポート・ベンダーの売り上げの一部がターボリナックスに入るようにはなっていない。「Linuxディストリビュータが全部やり方を決めてしまっては,有償サポート・サービスは浸透しない。当社はパートナ企業が必要とする材料だけを提供する」(小島國照社長)。

レーザーファイブなども教育を開始

 レーザーファイブはサポート・ベンダー向けに詳細な技術支援サービスを用意している(表1)。2000年2月から,認定技術者を養成するための教育講座を開設する。認定試験は実施せず,指定した教育講座の履修者をサポート技術者として認定する。ただし,認定した技術者の人数をサポート・ベンダーの認定条件にはしない。

 ネオナジーは,個別契約でサポート・ベンダーを技術支援する。カルデラ認定の教育講座も4月以降に開設する計画。技術者認定制度は設けない。

 このほかでは,「Kondara MNU/ Linux1.0」を販売しているデジタルファクトリジャパン(大阪市)が,2000年5月をメドに企業ユーザー向けサポートを始める計画だ(表2[拡大表示])。ただし,当面は自社による直接サポートに限定する。

(中村 正弘)