コンビニ店舗を,個人向けエレクトロニック・コマース(EC)のインフラにしようという動きが本格化している。セブンーイレブン・ジャパン(東京都港区)をはじめコンビニ各社が相次いで,インターネット上に個人向けECサイトを構築。ECサイトにアクセスするためのマルチメディア端末を店舗内に設置し,旅行商品やチケット,書籍といった商品の購買から決済,受け取りまでを可能にするサービスを今秋から始める。

表1●コンビニ店舗を個人向けEC(エレクトロニック・コマース)のインフラとして活用することを狙った三つのプロジェクト
 セブン―イレブン・ジャパン(東京都港区)など8社が2000年1月6日に行った新会社設立の記者会見は,集まった顔触れの豪華さが大きな話題になった。セブン―イレブンの鈴木敏文会長を筆頭に,NECや野村総合研究所(NRI),ソニー,三井物産,日本交通公社(JTB)といった各業界のトップ・クラスの企業経営者が勢ぞろいしたからだ。

 8社が設立した新会社「セブンドリーム・ドットコム」は,個人向けEC(エレクトロニック・コマース)サービスを提供する。一般消費者の生活に定着したコンビニを個人向けECのインフラとして活用するため,コンビニ最大手であるセブン―イレブンの構想に,有力企業が業界の垣根を越えて大同団結した。

 新会社はインターネット上に,旅行商品やチケット,書籍や音楽データを販売するECサイトを構築する。さらにセブン―イレブンの店舗に,インターネットに接続できるマルチメディア端末を設置し,一般消費者がECサイトにアクセスして商品やサービスを購入できるようにする。「取扱高は2001年度に1500億円,2003年度には3000億円を狙う」(セブン―イレブンの碓井誠取締役情報システム本部長)。

商品の購入,決済,受け取りを可能に

図1●セブンーイレブンの店舗では,セブンドリーム・ドットコムが設置するマルチメディア端末と多機能コピー機により,さまざまなサービスが提供される。各店舗は,データ・センターから衛星や専用線を介して,各サービスのコンテンツであるデータを受け取る
 セブン―イレブン以外のコンビニ各社も一斉に,個人向けECへの取り組みを本格化させている(表1[拡大表示])。いずれもインターネット上に個人向けECサイトを立ち上げ,一般消費者がコンビニ店舗のマルチメディア端末などを使って,商品の購入から決済,受け取りまでを行えるようにする。コンビニ店舗をECビジネスのインフラとして活用すると同時に,店舗への集客効果も狙っている。

 業界2位のローソン(大阪府吹田市)は,個人向けECサービス「econ」を展開する。まず一般消費者がインターネットで購入した商品の代金収納サービスを今年2月末に開始,4月末には商品の受け渡しを始める。今秋には,ローソンの店舗に設置ずみのマルチメディア端末をインターネットと接続し,ECサービスを本格的に始める。

 一方,業界3位以下の5社は共同で新会社を設立し,セブン―イレブンやローソンと同様のECサービスを提供する。今年1月13日には,ファミリーマート,サークルケイ・ジャパン,スリーエフ,サンクスアンドアソシエイツ,ミニストップの5社で構成する「e-ビジネス協議会」が発足。新会社設立に向けた活動をスタートさせた。

 コンビニ各社が一斉にECへの取り組みを強化し始めたのは,「コンビニが単なる商品販売だけでなく,情報ネットワークを活用したビジネスのインフラとして使われ始めた」(セブン―イレブンの鈴木会長)からだ。例えばコンビニによる公共料金の代行収納サービスの取扱高は,「すでに6000億円を超えた」(同)。全国規模で物流網が整備され,現金決済も可能なコンビニをECのインフラとして活用すれば,個人向けECのアキレス腱とも言われる物流と決済の問題を一気に解決できる。

 さらにコンビニ店舗にマルチメディア端末を設置すれば,EC市場を拡大できるという読みもある。日本はまだ,個人がインターネットにアクセスするための環境が十分に整備されているとは言えない。これがEC市場拡大のネックになっている。セブン―イレブン1社だけでも全国で1日当たり770万人というコンビニの来店者に,店頭でインターネットを利用できる環境を用意すれば,この問題も解消する可能性がある。

 新サービスによる集客効果で,本業である物販事業の拡大も見込める。現在,コンビニ各社が個人向けECサービスとは別に進めているATM(現金自動預け払い機)設置の動きにも,こうした狙いがある(1999年12月6日号32ページ「コンビニATMが始動」を参照)。

店舗の端末からECサイトを利用

 セブンドリーム・ドットコムは今年6月にECサイト「7dream.com」を立ち上げる。10月から約半年をかけて,マルチメディア端末を全国約8000カ所のセブン―イレブン店舗に設置していく計画だ(図1[拡大表示])。

 NECが開発を担当する,セブンドリーム・ドットコムのマルチメディア端末は,小口現金の決済機能を備える本格的なもの。音楽配信向けにMD(ミニディスク)やメモリー・スティックにデータを書き込む機能を備えるほか,カラー印刷機能を使ったチケットの発券なども可能だ。さらに,多機能コピー機を店舗に設置してマルチメディア端末とネットワークで接続し,画像データのカラー印刷サービスなども始める。

 マルチメディア端末へのコンテンツ配信などを行うデータ・センターは,NECとNRIが共同で構築・運用する。セブン―イレブンの既存の衛星ネットワークを利用することで,データ・センターから端末に大量のデータを送信できる。また,マルチメディア端末とデータ・センターを専用線で結んで双方向通信を可能にする。端末設置やシステム構築などの総投資額は400億円に上るという。

ローソンも端末の機能を強化

 ローソンは他社に先駆け,主にスタンドアロンで使用するマルチメディア端末「Loppi」を店舗に設置。2年前から旅行商品などを販売している。同社は今後,この端末にインターネット接続機能を追加する。今秋には同社のECサービス「econ」を強化し,マルチメディア端末からさまざまなECサイトにアクセスできるようにする。「新たに出資を受けることになった三菱商事などが保有する豊富なコンテンツを活用していきたい」(ローソンの保坂嘉久新規事業開発室主査)。

 すでにローソンは,1999年11月から自前のECサイト「@LAWSON」を運用している。同社は,マルチメディア端末から@LAWSONなどのECサイトにアクセスできるようにするため,デジタルガレージ(東京都渋谷区),東洋情報システムの2社と共同でeconのシステムを強化する。「ローソンの店舗だけでなく,業界他社の店舗を通じたサービス提供も視野に入れている」(保坂主査)。

 一方,e-ビジネス推進協議会を発足させたコンビニ5社は,共同利用を前提にデータ・センターを構築・運用することを計画している。「データ・センターを1社で構築するとコストがかかり過ぎる。インフラは共同で構築・運用するほうが効率的」(サンクスの橘高隆哉社長)という考えだ。

 ただし共同で開発・運用するのはデータ・センターや端末などだけである。「コンビニ店舗でのECビジネスの詳細については,各社が個別に進める」(橘高社長)という。

(関 信浩)

無店舗の“ネット・スーパー”も登場

写真●e-コンビニエンスの設立記者会見。右から順に,スピードグループの白石伸生社長,サンクスアンドアソシエイツの橘高隆哉社長,サークルケイ・ジャパンの土方清専務
 コンビニ各社が始めるECサービスを利用するためには,一般消費者はコンビニ店舗に足を運ぶ必要がある。そこで,家にいながら商品を注文したり受け取れるという通常のECサービスに取り組むコンビニも出てきた。

 流通系ベンチャのスピードグループ(東京都中央区)は,サンクスやサークルケイなどと共同で,一般消費者がインターネットで購入した日用品などを宅配する新会社「e-コンビニエンス」を今年1月31日に設立。4月から都内の一部地域を皮切りに,インターネットや電話,ファクシミリで注文を受けた商品を,指定された時間に宅配する,いわゆる「ネット・スーパー」事業を開始する。

 e-コンビニエンスの取り扱い商品は,生鮮食料品や加工食品,雑貨など約4000品目。在庫を持つため,「注文を受けてから最短で2~3時間以内に宅配できる」(黒澤義浩社長)。

 e-コンビニエンスは宅配のみの無店舗事業であり,コンビニ店舗は一切使わない。サンクスの橘高隆哉社長は,「コンビニの従来の事業はマス・マーケティング主体で,顧客の顔が見えていなかった。これに対してe-コンビニエンスは,ワン・トゥ・ワン・マーケティングを実践できるようになる」と説明する。流通業界の競争が激化する中で成長を続けてきたコンビニ業界も,EC時代の新しい流通ビジネスを模索している。