図1●電力線通信の特徴
既に敷設されている家の中の電力線を通信路として使う。信号は電力に重畳する形で送られる。コンセントは各部屋にあるため,容易に家庭内のネットワークを構築できる。また,給電と通信が同時に可能となるため,家電機器との相性が良いと期待されている。
図2●電力線通信の高速化を巡る議論の流れ
2002年4月に2M~30MHz帯域を使う電力線通信の実用化が検討されたが,時期尚早として周波数帯域の拡大は見送られた。その後,漏洩電界強度を低減するための技術検証を目的とした実証実験が解禁となり,2005年1月から再び実用化の可否と実用化に当たっての技術要件を検討する研究会が始まった。
 電源用コンセントにプラグを挿せば,即通信開始—。電力にデータ信号を重畳させて通信する電力線通信(PLC,Power Line Communication)である。既に敷設してある電力線を使うことができ,給電と同時に通信が可能になる手軽さがメリットだ(図1[拡大表示])。コンセントはほとんどの部屋に設置してあるため,どの部屋からでもネットワークに接続できる。ビル管理などで多く使われている米Echelon社のLonWorksや白物家電向けのECHONETでは,PLCを伝送媒体の一つに利用している。

 現在PLCに割り当てられた周波数帯域は10k~450kHzである。このため低速な通信しかできない。主としてセンサーで検知した機器の状態を通知したり,スイッチをオン・オフしたりといった制御用途に使われている。高速化すればコンセント経由でインターネットに接続したり,高画質の動画をDVDレコーダーからテレビに伝送したりといったことが可能になる。

 こうした用途を想定して,モデムメーカーや電力会社を中心にPLCの高速化を目指す動きが2002年ごろから続いている。高速化の最大の関門は周波数帯域の拡張。推進各社は2M~30MHz帯域の割り当てを要望するが,この帯域は船舶・航空無線をはじめ多くの無線技術が既に利用している。

周波数拡張に向け再び検討が始まった

 実は周波数帯域の拡張は,2002年に一度検討された。総務省が「電力線搬送通信設備に関する研究会」を立ち上げ,実環境での実験およびヒアリングを実施した。実験結果は芳しくなかった。電力線から漏洩する電磁波のレベルが高かったのだ。ヒアリングでも2M~30MHz帯域を使う他の無線通信関係者から,漏洩レベルが大きいため通信を妨害されると反対が相次いだ。

 これらの状況をふまえ,研究会は「現時点での周波数帯域の拡大は困難」と判断。ただ可能性が断たれたわけではなく,「今後漏洩電磁波を低減する技術改良が期待されることから,研究開発を継続することが必要」と提言した。

 その後,総務省は漏洩電磁波の低減技術を検証できるよう2004年1月に法令を改正した。推進各社は実証実験の解禁を受け,続々と実験を開始。業界団体であるPLC-J(高速電力線通信推進協議会)は自主的な漏洩電界強度の目標値を44dBμV/mに設定して実験データを集めた。

 2004年12月,PLC-Jは実験データが出揃ったとして研究会の開催を総務省に要望した。こうして総務省は2005年1月に「高速電力線搬送通信に関する研究会」を設置し,検討を始めた(図2[拡大表示])。2005年10月には,PLCの高速化を認めるか否かや,PLCの漏洩電磁波の許容値を決める予定である。

 前回と大きく異なる点は二つある。一つ目が,屋内の電力線を利用する形態に絞って検討することである。PLCは電柱に張り巡らされている電力線と,建物内に敷設されている電力線のどちらも通信に利用できる(p.74の別掲記事「スペインではPLCを屋外で利用」を参照)。だが,2002年の研究会における実験で,前者の場合は漏洩レベルが高くなってしまうことが分かった。そこでPLC-Jは,建物によって漏洩レベルの低減効果が見込める屋内利用から実用化しようと考えたのだ。二つ目の違いが,研究会に推進側と妨害を受けるとされる通信関係者が参加すること。2002年の研究会は学識者のみだったが,今回は当事者が参加して具体性を伴った議論がなされている。