企業システムの構築技術として盛り上がりを見せたWebサービスは2001年に停滞し始めた。しかしその一方で,別のWebサービスが力強く芽吹いている。インターネット上で提供されているサービスをWebサービス化したものだ。これらを柔軟に組み合わせ,新たな付加価値を提供するサービスが登場し始めている。
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なぜ1999年から2001年ごろにかけてスムーズに進んできたSOAPを中心とするムーブメントは,停滞し始めたのか。製品ベンダー各社が,標準化団体で戦い始めたことが一因である。SOAPとWSDL(Web Services Description Language)の成功によって,標準化で主導権を握ることが市場優位につながると判断したために起こった。似たようなドラフトが次々と公開され,どちらがオープンでどちらがプロプライエタリであるかを言い争って,肝心の実装は進まなかったのである。膨れ上がった「WS-」で始まる標準候補の数々は,それを実ビジネスで利用する意欲をそぐのに十分だった。
製品ベンダーが標準化争いをしている理由はほかにもある。Webサービスによってシステム同士がほぼ自動的に接続するという幻想から,いまだに逃れられないからである。さすがに“UDDI(Universal Description,Discovery and Integration)を中心としたビジネス・ネットワーク”などという発想は鳴りを潜めているが,「Service Broker」「Enterprise Service Bus」などのキーワードにはまだまだ事欠かない。標準の技術仕様に沿ったアプリケーション同士が,標準の語彙をやり取りするための標準の規約を利用してビジネスの流れを実現するのだから,システム同士がインテリジェントに接続の調整をできるはずだ,という幻想は根強く残っている。
業界は,二つのサービスをつなぐために必要なものを列挙することに忙しく,そもそもつなぐ対象となるサービスが存在していないことには気づいていない*1。異なる企業間で具体的にどのようなサービスを連携させればどういったメリットが得られるのか,現実的な絵は示されていない。Webサービスはサービス指向アーキテクチャ(SOA)という新しい旗印の下に,相変わらず標準も製品も実例も皆無に等しい状態で,マーケティングだけが続けられているというのが,2005年早春の状況だ。
新たなWebサービスの芽吹き
だが,Webサービスは技術として死んでしまったわけではない。製品ベンダーは仕様の階段をどんどん上へ上へと駆け上がっていって,いつの間にか誰の目にも見えなくなってしまった。ただ地表には,SOAPの登場以降に地道に積み上げられてきたものが残った。例えばさまざまなプログラミング言語で作られたSOAPライブラリや,各ライブラリ間で保証された相互接続性などである。こうしたものを基に,新たな芽が出始めているのだ。
その代表例が,米Google社や米Amazon.com社が公開するWebサービスである。2002年4月,既にインターネット検索で一定の地位を築いていたGoogleは,自社の検索エンジンの機能をWebサービスとして公開した(画面1[拡大表示])。同年7月,Amazon.comもWebサービスの公開を始めた(画面2[拡大表示])。両社のWebサービスは当初から,SOAPとWSDLを利用していた。Amazon.comは,Webサービスを利用して得られる収入まで規定した。
これら二つの企業には,三つの共通点がある。(1)最初からインターネットをベースに生まれた,(2)ITベンダーではなく,ITとは直接関係ない商品やサービスの提供で利益を得ている,(3)ITに力を入れており,ソフトウェア開発者をたくさん雇用している,である。換言すれば,Webサービスという技術を取り入れるだけの土壌があり,「サービス」の部分に強みを持っていて,しかもそのサービスは最初からインターネット上に公開されているという特徴が共通する。
GoogleやAmazon.comが提供するWebサ ービスは,ベンダー同士の標準化戦争を尻目に,急速にインターネットに普及していった。普及を後押ししたのは,かつての熱狂のときに実装されていた,各言語対応のライブラリだ。どんな開発環境を使っていても,そこにはXMLやSOAP,WSDLを扱う機能が用意されていたのである。GoogleやAmazon.comが,APIを公開する際にHTTPとXMLを利用したのは,その時点でそれが最も広い範囲の開発者にアプローチできる手法の一つだったからである。
吉松 史彰 Fumiaki Yoshimatsuアマゾン ジャパン Amazon Webサービステクニカル・エバンジェリスト |