企業間の分散システム基盤へと進むSOAP

 MicrosoftとIBMから生まれた技術の当然の成り行きとして,SOAPはこれまでCORBAやDCOMなどが目指していた分野を狙う。すなわち企業間レベルの分散システムの基盤へと歩を進め始める。分散アプリケーション環境の実現には,データ形式をSOAPで規定しただけでは不十分だ。セキュリティや信頼性の確保など,問題は山積している。その解決のために,両社はすでにそれぞれの作業を始めていた。

 Microsoftは,企業間の電子商取引をXMLのメッセージ交換で実現する「BizTalk Framework」において,さまざまなビジネス文書のためのXMLスキーマを定義していた。開発ツールとして,2000年初頭には「BizTalk Jumpstart Kit(JSK)」を出荷している。2000年6月に .NET構想を発表し,日本でも「the Microsoft Conference 2000/fall」でWebサービスを中心とする製品戦略が披露された。筆者は当時在籍していた会社で,この基調講演で披露された「BizTalk Server 2000」を中心とするXMLメッセージングのデモを開発していた。そのデモとともに東京を皮切りに北海道や広島を飛び回っていたことを覚えている。BizTalk Server 2000には,XDRに従ったXML文書をSOAPを使って送信する機能が含まれていた。また,送信する文書を暗号化したり,電子署名を付加したり,届かなかったメッセージを再送する機能も付いていた。この早い時期にこうした機能に触れたこともあり,筆者はこの当時,Webサービスが企業間商取引に必須の要素技術になることを疑いもしていなかった。

 同時期に業界横断的なイニシアチブとして,ebXML(Electronic Business using eXtensible Markup Language)も発展を遂げている。企業間での商取引の手順や交換するデータの内容などを定めるために,ITベンダーが多数集まって団体を設立し議論を重ねた。ebXMLがメッセージングの仕組みとしてSOAP 1.1を採用したことは,Webサービスがいよいよビジネスの世界に羽ばたくトリガーとなるはずだった。

 実ビジネス適用の際に必須となる,暗号化,電子署名,メッセージ再送などの機能についても,相互接続を実現するための動きが始まった。IBMとMicrosoftは2001年4月,共同で「Web Services Framework」を発表する7。Webサービスで企業間連携を実現するための機能や処理手順を,汎用的な枠組みとして規定したものである。Microsoftは続いて,2001年10月の開発者会議で,「Global XML Web Services Architecture(GXA)」を発表する。この中には,Web Services Frameworkの中で必要とされたさまざまなプロトコル,WS-Security,WS-Routing,WS-ReliableMessaging,WS-Transactionなどの仕様が列挙された。

 暗号化,電子署名,再送などの処理には,送るものがひとまとまりの文書であったほうが都合がよい。これらの仕様をベースに企業システムを実現しようとする陣営は,SOAPをdocument/ literalで利用するよう推進した。前述のようにWS-Iがこの方針を支持し,2004年4月に公開したBasic Profile 1.0でencodedを明示的に禁止した。仕様のあいまいさを排除して相互運用性をさらに向上させ,暗号化や署名などのビジネスに必要な機能を用意することで,SOAPやWSDLをベースにしたWebサービスが,企業システム構築の中心技術になることは確実であるかに思われた。

 しかし予想に反して,Webサービスは停滞を始めるのである。