センサーネット:
最小限の電力で情報を集める

 数百,数千のセンサーから収集した情報を基に,きめ細やかなサービスを提供するセンサー・ネットワーク。ヒトやモノの動きに合わせて動的につながり方を変えることで,アドホックなネットワークを形成する。個々のセンサーの主な通信手段は無線である。

 この無線によるアドホックなネットワークによる情報集約を低消費電力で実現するために,大阪大学大学院情報科学研究科が文部科学省の21世紀COEプログラムの一環として開発したのが,ホタルの発光原理を模倣した「同期型センサ情報収集機構」である。ホタルの発光原理に学ぶことで,必要最小限の電力でセンサーの同期を取る。

図8●ホタルの同時発光をモデルにしたセンサー・ネットワーク同期手法
ホタルは近隣のホタルの光に刺激され発光する。互いに刺激し合うことで集団が同時発光する。大阪大学大学院情報科学研究科が開発した同期手法では,基地局から無線通信可能なセンサーを「レベル1」として同期。さらにレベル1のセンサーから無線通信可能なセンサーと同期する。これを繰り返すことで,全体の同期を図る。

 センサー・ネットワークの情報収集は,バケツリレー式に行う。センサーの数が多い場合は,すべてのセンサーが基地局に送信するのは現実的ではないからだ。そこで周辺部にあるセンサー端が同じタイミングで情報を送信し,より基地局に近いセンサーが自らの情報と受信した情報を整理して,基地局に情報を集約する。この一連の動作の基準となるクロックをいかに供給するかが課題となる。

 最も単純な方法は,基地局からのクロック信号をすべてのセンサーに届かせるようにすること。しかし無線通信の到達距離の2乗で消費電力が増えるため,基地局からのクロック供給は効率が悪い。そこで同期型センサ情報収集機構では,基地局に近いセンサーから徐々に同期をかける手法として,ホタルの発光原理を模倣した。ホタルは近隣のホタルの光に刺激され発光する性質を持つ。ホタルが互いの光を感じる範囲に密集すると,徐々に光の発光周期が揃う。この同期のメカニズムをモデル化し,センサー・ネットワークに適用した。

 具体的には,基地局から無線通信可能なセンサーを「レベル1」としてグループ化。基地局からのクロック信号で同期を取る(図8[拡大表示])。さらに,レベル1のセンサーから無線通信可能なセンサーを「レベル2」として同期させる。クロック信号にはレベルの情報が埋め込まれており,自分より低レベル,つまり基地局に近いセンサーのクロック信号のみに同期するようにしてある。これを繰り返して,全体の同期を取る。

(中道 理,高橋 秀和)