かな漢字変換ソフト「ATOK」は,2004年12月に発表したATOK2005でバージョン18となる歴史あるソフトだ。誕生は23年前。元となるソフトはジャストシステム創業から2年経った1981年に開発された。代表取締役社長の浮川和宣氏は,あらゆるアプリケーションにかな漢字変換機能を提供するプログラムが必要だと考えた。アプリケーションの手前で動くのでFEP(Front End Processor)と呼ばれるものだ。スペースキーを使って変換し,ローマ字入力を採用するなど,今日の標準的な使い方を実現するものだった。

 浮川氏は,徳島でジャストシステムを立ち上げ,日本ビジネスコンピューター(JBCC)のリセラーとしてオフコンを売り歩いた。当時,ほかのリセラーは「漢字を表示する機能があっても,操作が面倒で値段が高くなるといって,カタカナの使用を推奨していた」。だから漢字表示は売りになった。「特に地方だと,カタカナばかりの請求書にかなり違和感がある」からだ。

 とはいえ,漢字を打ち出せるシステムは高くて予算がないと言われることも多かった。しかも漢字を入力するには4桁のJISコードを入れなければならないし,「OSが漢字入力に関しては何もしないので,個別のソフトが漢字変換機能を備えていた」。そこで浮川氏はさまざまなソフトに漢字入力機能を提供できるソフトの構想を練った。妻である浮川初子専務取締役がプログラムを作った。

スペースキーを使って候補選択

 最初は1文字単位で漢字に変換する単漢字変換で,ローマ字でかなを入力するたびに対応する漢字候補を一覧表示した。例えば,「美しい」という語の場合,「u」を打つと「う」と読む「宇」「卯」などの漢字候補が,「utsuku(うつく)」まで打つと,「美」が候補に出てくる。このように最後まで打たなくても変換できたので「先読み変換」と名付けた。

 浮川氏には二つのこだわりがあった。一つが,先読み変換で変換候補から所望の漢字を選択するときにスペースキーを使うこと,もう一つがローマ字入力である。今では変換にスペースキーを使うのは当たり前だが,「当時はスペースキーを使っているものはなかった。でもこれが一番早く入力できる」。また,「世界標準を意識していたので,どのキーボードでも使えるようにローマ字入力にした」という。

 こうして開発したかな漢字変換ソフトを,ロジックシステムという会社の海外向けコンピュータで動作するようにした。そしてロジックシステムの勧めで,ジャストシステムがかな漢字変換ソフトを製品化した。浮川氏は,かな漢字変換ソフトを搭載したロジックシステムのマシンにJBCCの漢字プリンタを接続して300万円で販売し好評を得た。当時としては格安で,漢字表示ができるオフコンの3分の1程度の価格だった。

 1982年には,CP/M-80用のかな漢字変換ソフトを開発し,「KTIS(Kana-kanji Transfer Input System)」と名付けた。データショウで参考出展した。ただしメモリーの制約があったので,ワープロに組み込む形にした。

変換精度の向上は今後も続く

 KTISの商用化は1983年。ワープロソフト「JS-WORD」を開発し,そのかな漢字変換ソフトとして作った。JS-WORDはNECのパソコン「PC-100」に標準搭載された。1985年にはPC-9801向けワープロソフト「jx-WORD太郎」を発売。このとき名称を「ATOK(Advanced Technology Of Kana-kanji transfer)3」に変えた。このATOK3で連文節変換に対応,半年後のATOK4でようやくワープロ本体と切り離して使えるようにした。ATOK4はワープロソフト「一太郎」のかな漢字変換ソフトである。

 その後も複合語変換など,ATOKは変換性能を高めていった。そして1993年のATOK8では,先に変換した単語から次の単語の変換を予測する「AI変換」を取り入れた。「jx-WORD太郎を出荷したころに一発で完全な変換になるべきと言われた。そのころから意味を考えた変換が目標だった」と浮川氏は語る。

 バージョン18まで改良を重ねているATOKであるが,浮川氏は「目標はまだ先にある。エンジニアは大変だ」と笑う。「かな漢字変換ソフトはユーザーの癖や仕事内容を把握し得る存在。変換精度の向上やユーザーに合った機能の充実などやることはまだまだ多い」。

(堀内)