最近,キャリアや仕事に関しての相談を会社の人からよく受ける。大仰な言い方だが,みんな真面目に10年後を見すえ,今何をしていたらいいのか悩んでいる。食べるために働く時代は終わった。一方で,アメリカから遅れること10年,日本で労働力の流動化が進み,自分の父親や身近な人たちがリストラされるのを見て,若者たちは人生が決して平坦ではないことを認識し始めた。

 どう生きたらいいのだろうと考えるとき,人はいつも臆病になる。彼ら彼女らは私に問いかける。「自分は大丈夫なのだろうか?」と。私は,そんなとき,私を勇気づけてくれる,ある人生の話をすることにしている。

打たれ強く生きる

 その人の話は,私が最も好きな起業家Kamran Elahian氏が教えてくれたものだ。彼はイラン人で,18歳のときに米国に移住した。Utah大学でコンピュータ・サイエンスと数学を学び,コンピュータ・グラフィックスで修士号を取得している。最初の職場である米Hewlett-Packardでは自己主張が強い若手エンジニアで通っていた。半導体を設計するものの動かない。常にプロジェクトをリードしたがる向こう見ずな若者を,「あまりに若く経験が少ない」と上司は叱責した。

 そんな彼が組織にあきたらず数年で会社をやめて,4人の同僚と一緒に最初の起業をしたのは27歳のときだ。エンジニア出身の彼は,会社が投資を受けるために必要なビジネスプランの書き方も知らなかった。数え切れない投資家をまわり最後に説得した人は,「根負けした」と言ったそうだ。

 Elahian氏は,最初の起業以来,10指に余るハイテク企業やNPOを創業している。その中には,いずれも創業5年以内にIPOを果たした,Cirrus Logic,NeoMagic,Centil-lium Communicationsが含まれる。大成功した起業家という呼び名が彼にはふさわしいが,私が彼を好きな訳は,彼の打たれ強さにある。成功物語の裏には,一度や二度ではきかない失敗が隠れているものだ。順調に見える人の人生こそ,大きな失敗をバネにしている。でも,その途中では不安が襲ってくる。このまま人生が終わったら…。

 私がElahian氏に最初に出会ったのは,まさに彼が大失敗をした直後である。学生だった私は,起業論のクラスに席をおき,授業にやってきた起業家たちの成功談を聞くことを楽しみにしていた。ある日,教授が「次回の授業では失敗した起業家を呼んであります」という。失敗を評価するシリコンバレーでも,さすがに失敗の直後となると,堂々と人前に出るのははばかられるのではないかというのが,当時の私たちの思いだ。その人の起こした事業は,私たちもよく知る大失敗だったので,学生たちは「本当に来るかな?」とヒソヒソ話をした。

 当日の彼は,おごることも,臆することなく,淡々と起業から失敗にいたるプロセスを語った。それは,Apple ComputerよりもPalmよりも そして Goよりも早く,ペン入力のコンピュータをつくった偉大なるMomentaの失敗物語だった。彼は,それ以前の成功には一言もふれず,失敗者として私たちに対面した。

 辛らつな質問をあびせる学生たちに彼は静かに言い放った。「確かに,私は失敗者だ。しかし,おそらくあなたたちの誰よりも自分自身を信じている。最後に,私以上に失敗した人がいるから,その人の人生をここで紹介しよう。あなたたちも,これから大いに失敗するだろう。そのとき,この人の人生を思い出してほしい」とスライドを見せた。

失敗だらけの人生

 Elahian氏が最後に示したのは,失敗だらけの人生だった。その人は,幼いころに母を亡くし,小学校を中退している。初めての仕事は荷物運び,22歳のときに起業したが失敗。23歳で州議会の議員に立候補,落選。25歳で州議員になるものの,その後,再度起業。これも失敗に終わった。26歳のときには,恋人と死別している。翌年には,さすがの本人もまいったのか精神を病んだ。政治への興味がまたふつふつと起こる。34歳から5年間,3度にわたり,下院議員選挙で落選した。さらに,46歳では上院議員に立候補してこれも落選。ここまでいくと,この人,大丈夫かと疑いたくなる。47歳には副大統領に立候補,失敗。49歳で再度,上院議員をめざすものの落選。

 そして,彼は最後に大統領になる。51歳だった。これが,奴隷解放宣言で有名な第16代アメリカ合衆国大統領「Abraham Lincoln(アブラハム・リンカーン)」の人生である。

 Elahian氏は言った。「You must believe passionately in and be persistent for what you're doing(自分がしていることを猛烈に信じろ。粘り強く)」。不安を克服するためには,自分を信じるしかない。もし,人生で失敗に直面したら,自分を信じることから次の一歩を始めてみよう。

Geeksとは,恥かしがり屋,知的,プログラミングか電気関係のスキルがある,独自の価値感を持っている,そんな魅力あふれる人々の俗称である。