先が長い振動発電と熱発電
振動発電と熱発電が使えるようになるのはまだまだ先だ。発電量が少ない上に,モジュールが大きくなりコストがかさむ。使用場所や用途が限られる欠点もある。
例えば,腕時計では振動発電モジュールが実用化されている。このモジュールの場合,腕の振動により1μW程度の発電が可能だという。しかし,これでは数十mWの電力を消費するセンサーノードには不足。ドアのような大きな衝撃がある場所では瞬間的に数十mWの電力を作ることも可能だが,よほど頻繁に開け閉めする場所でないと使えない。
熱発電も状況は似ている。シチズン時計が1999年に腕時計用に開発した3mm角のペルチェ素子を使えば,表裏の温度差が1度のときに,12μWの電力を発生できる。腕時計には十分な電力だが,センサーノードは動かせない。
出力を下げ通信を減らす
一方,センサーノード自体の省電力化には(1)通信の省電力化,(2)処理系の省電力化,の二つが考えられる。
通信の省電力化で最も有効なのが,信号の伝達距離を短くする方法である。特に無線で通信する場合に効果的だ。一般に従来の通信距離の半分でよければ通信電力は1/4で済む。
このため多くのセンサー・ネットワークでは「マルチホップ」と呼ぶ送信方式を使う(図3[拡大表示])。この方式は遠くにあるノードと通信するときでも,直接そのノードと通信しない。近くのノード同士で通信し,伝言ゲームのように遠くのノードへ伝達していく。通信時間は長くなるが個々のノードの消費電力は小さくできる。
マルチホップとは違うアプローチとして,無駄な送信を極力減らす方法もある。これも通信の省電力化につながる。送信は大きな電力を使うが,受信だけなら小電力で済むからだ。
一般に無線ネットワーク・システムでは自分の位置や存在を周囲に知らせるために,ビーコンを発信したり,通信経路の情報を交換したりする。省電力化のためにこういった作業は極力避ける。
これを追求したのが,ワイマチックと産業技術総合研究所が共同開発したセンサーノードである(写真1)。ノードは自分のIDを受信した場合だけ,応答を返す。通信できる範囲を数十mと絞るのでマルチホップもしない。だから,経路情報を交換する必要がない。「電池自体の製品寿命を考えなければ,計算上はボタン電池の容量で60年間使える」(ワイマチックの山田茂社長)という。
NECが環境観測用に開発したセンサーノードも同じ発想で作られている。まず自分あてのフレーム以外応答しない。さらに待ち受け時の回路と,稼働時の回路を切り分けてノード全体の省電力化を図っている(図4[拡大表示])。具体的には,待ち受け専用に振幅変調の受信回路を持つ。待ち受け時には,この回路以外に電力を供給しない。自分自身の状態は不揮発メモリーに保存する。
自分のIDが入ったフレームが到着すると,CPU,メモリー,センサーなどに電力の供給を開始する。データの送受信は周波数変調を使う。待ち受けとデータの送受信で異なる変調方式を使うのは,振幅変調の方が消費電力を抑えられるからである。全体として同社従来比で電力を65%削減できたという。
地道な努力で消費電力を削減
(2)の処理系の消費電力低減は,CPU,メモリー,通信チップといったセンサーノードを構成する部品の消費電力を下げることに尽きる。
例えば,アーズが早稲田大学,ウエアラブル環境情報ネット推進機構と共同で開発した小型センサーノード・モジュール「Ni3」は小電力の部品を選定し,チップ間の配線長を可能な限り短くして電力損失を抑えた。加えて,処理プログラムと通信プロトコルを簡素化してCPU稼働時間を減らした。「5分に1回送信する程度であればボタン電池で3年持つ」(アーズの佐藤社長)という(写真2)。
三菱電機,千葉科学技術大学,日本アレフはCPUの負荷に応じて動作周波数を変化させることで,消費電力を削減する技術に取り組んでいる。パソコンではおなじみの手法だが,センサーノードでも有効だ。負荷に応じて0/1.25M/2.5M/5M/10MHzの5段階で変化させる。センサーなど周辺チップへの電力供給のオン/オフ制御と組み合わせることで,全く制御しない場合と比べて3分の1の消費電力に低減できるという。