センサー・ネットワークではセンサーノードを大量にさまざまな場所に配置する。だからセンサーは,なるべく小さくあるべきだし,長寿命でなければならない。また,大量のノードの設定を省くために,電源を入れれば,すぐにネットワークにつながる簡便さが求められる。

 これらはいずれも一筋縄では実現できない。小型で長寿命というのは,電池で駆動する場合に矛盾する要件となる。

 しかも,ネットワークに簡単につながるようにするには,それなりの処理が必要になる。これも小型化や長寿命化に悪影響を及ぼす。

 理想は一度設置してしまえば,設定も電池交換も修理も不要な「メンテナンス・フリー」。だがそこには長い道のりが横たわる。

送信の省略と電力制御が最初の一歩

 センサーノードが大きくて重ければ,設置するのに苦労する。できれば,画びょうくらいに小さく,そして簡単に設置したい(別掲記事「理想の配布は全自動」を参照)。センサーの存在を人に意識させたくないのも小型化したい理由の一つ。センサーが大きく,人目に触れやすいと,常に監視していると主張しているようなものである。そして一度設置したセンサーは,できればそのまま永久に動き続けてほしい。

図1●センサーノードに求められる要件
小型化により電源容量が大きく取れない一方で,長期動作を要求される。
図2●センサーノードの技術的課題
解決策はいくつか考えられているが,まだ決定打となるものはない。地道な改良を続けている段階だ。

 小型化と長寿命化──。これらは相反する要求である(図1[拡大表示])。

 ほとんどのセンサーノードは電池で駆動する。電池の大きさはセンサーノードの動作時間と直結する問題だ。電池が小さくなればそれだけ,連続動作可能時間は短くなる。センサーノードは「製品サイクルの短い電化製品やバッグなどのファッション用品に付ける場合でも,3年は動き続けることが求められる。また,壁に埋めるなど再設置しにくい所なら数十年間動作する必要がある」(産業技術総合研究所 知能システム研究部門空間機能研究グループの大場光太郎グループ長)。そのために限られた大きさの中で電力供給能力を増大させ,ノード自体の省電力化を果たすしかない(図2[拡大表示])。

太陽電池に可能性

 電力供給能力の増大には主として二つの方法が考えられる。バッテリー自体の大容量化と太陽電池に代表される物理エネルギーの利用である。現状ではどちらも決め手に欠ける。

 パソコンや携帯電話向けのバッテリーの大容量化は研究開発が進んでいる。しかし,センサーノードに使えるほど小型のものとなると話は別だ。現在,大きさとコストの観点からセンサーノードではボタン電池が一般的だが,これを代替できるほど小さく,コストの安い電池は今のところ登場していない。それに電池に寿命があるという問題を本質的に超えることはできない。

 これに対し物理エネルギーは,うまくいけば永遠にセンサーノードの電源として使える。電池のように寿命を気にする必要がない。具体的な候補には,光を電気に変える太陽電池,振動エネルギーを電気に変える振動発電モジュール,熱をエネルギーに変える熱発電モジュールがある。だが現状では,どれも小さいと十分な電力を得られない。

 これらのうち,最も可能性があるのが太陽電池である。例えば,NECは2003年11月に名刺大の太陽電池を搭載した環境観測用のセンサーノードを発表した。水温,気温,湿度,照度を測定できる。ただし太陽が日中を通じて一番当たる方向に設置しなければならないため,設置は簡単ではない。「森の中など日陰では使えない」(NECシステムプラットフォーム研究所の保木本武宏主任研究員)という。このほかにも,アーズが名刺大の太陽電池と昇圧回路を組み合わせて,蛍光灯下で動作するセンサーノードを開発している。「2005年春には商品化したい。これが実現できれば,半永久的に使えるセンサーノードになる」(アーズの佐藤光社長)。

(中道 理)

理想の配布は全自動

図A●センサーノードが自ら移動して最適配置
移動可能なセンサーノードがお互いの位置を調べながら,最も効率よく広い範囲をカバーできる場所に移動する。ソニーコンピュータサイエンス研究所の田村陽介氏が考案した。
図B●Target Guarding using Mobile Sensors
疑似的な引力と斥力により,要人の周囲を常に取り囲みガードするセンサーの仕組み。米カリフォルニア大学アーバイン校の須田達也教授が開発している。

 いくらセンサーノードが小さくなっても,人の手で設置するのは煩わしい。天井やビルの上など人の手が届かない場所も多い。

 一つの解決策が,ロボットに任せることだ。東京電機大学工学部情報通信工学科の鈴木剛 助教授と工学部第一部情報メディア学科/第二部情報通信工学科の戸辺義人教授は,災害現場でロボットがセンサーノードを配布する研究を行っている。「人が入れない場所にロボットを送り込み,最適な場所にセンサーを設置させる」(鈴木助教授)のが目的だ。

 センサー自体が自力で移動してネットワークを構成する方法もある。ソニーコンピュータサイエンス研究所の田村陽介アシスタントリサーチャーは「1カ所にセンサーを置けば,勝手にビル内を広がって最適なセンサー・ネットワークを作り上げる。そういったシステムを作りたい」という。そこで,お互いの位置を調べながら,最終的に最適なネットワークを作り上げる仕組みを考案した(図A[拡大表示])。

 カリフォルニア大学アーバイン校Information & Computer Scienceの須田達也教授も似たアプローチを考えている。「Target Guarding using Mobile Sensors」と呼ぶ警備センサー・ネットワークを開発中である(図B[拡大表示])。移動可能なセンサーが相互に通信しながら,最も大きな円となるように要人の周りを取り巻く。もし,この円を横切る人がいれば警報を鳴らしたり攻撃を仕掛ける。「自然界にある力,例えば分子間力などを模した疑似的な引力や斥力を使えばセンサーが自律的に最適な位置に移動することが分かっている。数年後をメドに完成させる予定だ」(須田教授)という。

 「ロボットがノードに充電したり,バッテリーの弱くなったノードを交換すればよい」(産業技術総合研究所 知能システム研究部門 空間機能研究グループの大場光太郎グループ長)と考える研究者もいる。電力が少なくなったときにLEDを発光させれば,位置が簡単に分かる。