図3●2種類の予測機能
まず一つでも文字を入力すると,その文字から始まる言葉を提示する方式がある(左)。日本語としてよく使われる言葉と,ユーザーが過去に確定した言葉を並べて提示する。画面は京セラ製の「TK41」のもの。バックスの文字入力ソフト「Compact-VJE」を搭載している。もう一つの予測機能は,文字の確定後に,次に続く言葉を予測する(右)。確定済みの語とつながりやすい言葉や,確定済みの語のあとに,ユーザーが過去に入力した語などが上位に表示される。画面は,ジャストシステムの「ATOK」を搭載するカシオ計算機製の「A5407CA」。
画面1●入力欄別に辞書を切り替える
シャープが開発する文字入力ソフト「ケータイShoin3」は,文字入力欄によって使用する辞書を切り替える。例えば電話帳にデータを登録する際。人名の入力欄では人名用の辞書を優先するので,「や」と入力すると「や」から始まる人名のみを表示する。画面は,同社製の「V402SH」のもの。
図4●あて先別に辞書を切り替える
東芝の文字入力ソフト「Mobile Rupo」に搭載されている。登録されているアドレスごとに,利用する辞書を設定できる。その人にメールを送る際は,学習の結果や入力履歴などが専用の辞書に反映される。辞書は5種類まで利用可能。

入力されやすい語を上位に出す

 現在では,携帯電話の文字入力のメインはもはやかな漢字変換でなく,予測機能である。多くの機種が,2種類の予測機能を標準で搭載する(図3[拡大表示])。

 まず一つが,入力中のひらがなの文字列から始まる漢字の候補を提示するもの。ひらがなが入力されるたびに,インクリメンタル・サーチの手法で候補を絞り込む。候補が正しければ,ユーザーはひらがなをすべて打ち込まなくても入力できる。

 もう一つが,文字の確定後にその次に入力されそうな単語の候補を出す方式だ。例えば「ありがとう」と入力すると「ございます」「。」などが候補に出る。この中に入力したい文字があれば,ユーザーはひらがなを1文字も打ち込むことなく文字を入力できる。

 両方式とも,予測精度の向上が図られている。どのメーカーも力を注いでいるのは,ユーザーが入力したい語をいかに上位に出すか,である。「入力したいものが上の方になければ,キーを何度も押して候補を探さなければならない」(オムロンソフトウェアSS事業部営業部営業第2グループの山野惠一郎氏)からだ。

 候補の表示順序は主に三つの情報から決まる。一つは,その語が一般的に使われる語かどうか。さまざまな種類の文書データ(コーパス)を集めて統計処理をし,出現頻度の情報を基に重みを付ける。ただそれだけでは不十分なので,「辞書の専門チームが人手で細かなチューニングを施す」(富士通パーソナルビジネス本部ユビキタスクライアント事業部の林田健プロジェクト課長)。

 次に,そのユーザーが過去に入力した語かどうか。一人のユーザーが携帯電話で入力する語の数はそれほど多くない。以前に入力した語を再度使う可能性は高い。

 確定済みの文字列とつながりやすい語かどうかも判断の基準となる。ここは,ワープロ専用機やパソコンのかな漢字変換ソフトのノウハウが生きる。「前の文字列を参考にして次の漢字を決定する,いわゆるAI変換の技術が応用できる」(東芝モバイルコミュニケーション社商品企画部主務の今村誠氏)。どの語とどの語がつながりやすいかというデータから,適切な候補を提示する。

個人や状況に合わせる方向へ

 こうした基本的な手法に加え,最近では使う人や状況に応じて,予測候補を切り替えている。人や状況によって,使われる言葉は大きく異なるからだ。

 現時点の携帯電話に盛り込まれているアプローチは,大きく三つある。まず一つ目は,入力状況に応じて予測候補を切り替えることだ。例えば入力時刻。文字を入力している時刻に合わせて,候補に出す語を変化させる。「お」という入力に対して,朝は「おはよう」,夜は「お休みなさい」といった語が候補の上位にくる。またシャープは,氏名の入力欄では人名辞書を優先的に利用するといった処理を盛り込んでいる(画面1)。メールのあて先に応じて辞書を切り替えるというアプローチもある(図4[拡大表示])。

 二つ目は,ユーザーによる辞書の作成を可能にするもの。ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズは,ユーザーがパソコンで作成した辞書を公開できる「辞書クリエイター」というWebサイトを運営している。Webサイトにテキスト形式でデータを入力すれば,それを辞書化したものが,限られたメンバーのみに公開される。会社やサークルの仲間内だけで使われる言葉を辞書化するといった使い方がメインだ。