図1●携帯電話の文字入力技術の流れ
漢字表示可能な端末が登場して,携帯電話における漢字入力が始まった。iモード登場以前は,電話帳の名前入力程度だったため単漢字変換や単語変換で十分だった。電子メールの送受信ができるようになって,パソコンと同じようにかな漢字変換効率が問題になった。2001年のPOBoxの登場によって,変換するより予測が重要になった。
図2●POBox
文字入力欄の下に予測候補の表示欄を用意した。また本体には「ジョグダイヤル」を備えた。ダイヤルを回転させることによってカーソルを移動させ,候補を選択できる。ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製の端末に搭載されている。写真は「W21S」。
 音楽の視聴,テレビ電話機能,テレビ番組の表示…。最近の携帯電話は新機能満載だ。だがそんな新機能も,使い勝手が悪ければ宝の持ち腐れである。

 使い勝手を左右するポイントは二つ。入力効率の高さと分かりやすさである。携帯電話が備える入力キーは,数が少なく小さい。できるだけ少ないキー打鍵で,効率よく操作できるのが望ましい。それをいかに分かりやすく見せるか。これが携帯電話におけるユーザー・インタフェース(UI)のカギだ。

 中でもユーザーにとって気になるのが,求める機能に効率よくたどり着けるかどうか。これには大きく二つの側面がある。一つは,通常使う機能が効率よく快適に使えること。メールにおける文字入力がその典型だ。もう一つが,設定などたまに必要な機能に迷わずたどり着けること。メニュー構成やキー割り付けの工夫が求められる。

文字入力の使い勝手を高める

 数ある携帯電話の機能の中で,通話以上に使われている電子メール。携帯電話にはキーが12個しかないため,パソコンとは違った工夫が求められる。大きく二つの方向で技術開発が続けられてきた。一つはかな漢字変換ソフト自体の性能向上。単に「かな」を漢字に変換するのではなく,ユーザーが入力する語を予測するよう進化してきた。もう一つは,文字入力方式の改善である。文字の割り当て方式自体を見直して,キー打鍵数を減らした入力が実際に使われている。

 まず,携帯電話用かな漢字変換ソフトの発展過程を振り返ってみよう(図1[拡大表示])。ショート・メッセージ機能を使わないインターネット・メール作成機能が携帯電話に盛り込まれたのは,1999年の「iモード」から。それまでは単漢字,または文節単位での変換が一般的だったが,文章を入力する必要性から,2000年には複数の文節を一度に変換する連文節変換が主流になった。

 しかし,これはあまり効果がなかった。ユーザーにとっての手間は,「ひらがなを入力する」部分にあったからだ。しかも,くだけた文章のやり取りが多い携帯電話のメールでは,漢字が比較的少ない。その割合は「文字全体の17%程度。漢字が30%を占める論文などと比べると,漢字率はかなり低い」(ジャストシステムATOK製品開発部リーダー兼OEMビジネス部技術企画グループの丸山尚士氏)。

 そこに登場したのが入力予測機能である。2001年にソニーが「SO503i」や「C406S」に搭載した「POBox」がその先駆けだ(図2[拡大表示])。ユーザーが入力しようとしている語を予測し,候補として表示するという手法を採り入れた。ひらがなを漢字に「変換する」のでなく,最初の数文字だけを打ち込んで候補の中から望みのものを「選ぶ」スタイルを提案した。「液晶のカラー化や大型化によって,予測候補を分かりやすく表示できるようになった」(ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ商品企画部ネットワーク&アプリケーション企画課の斉藤寛統括係長)ことが搭載のきっかけだ。

 この動きに他社も追随した。2001年末から2002年にかけて,各社の文字入力ソフトが予測機能を次々に搭載した。