「電子計算機」というかつての呼び名の通り,コンピュータは電子によって動く。電子の動きによってオン/オフするトランジスタを半導体を使って実現している。演算と制御を担うCPUを始め,主記憶となるDRAM,ネットワークやメモリーの各種コントローラなどもすべて半導体。
一方補助記憶装置は磁気が主役である。ハードディスクはもちろん,書き換え可能なリムーバブル・メディアとしてフロッピー・ディスクやテープドライブなどがいまだに健在である。書き換えたくないデータの保存メディアに,昔から光ディスクが使われてきたくらいだ。コンピュータの基本機能を占める動作原理は電子と磁気が2大看板。光は脇役だ。
しかしここに来て,光を主要な要素技術としてコンピュータに取り入れる動きが出始めた(図1[拡大表示])。現在の主役である半導体,磁気ディスクとも踊り場を迎えたためだ。半導体は動作周波数の向上が頭打ちになり,磁気ディスクは容量増加のペースが鈍り始めた。幾度となく叫ばれてきた「限界」がまた立ちはだかろうとしている。
その壁を乗り越える決め手が光技術である。2010年前後に採用が始まる。コンピュータのバスは電気配線から“光バス”に置き換えられる。これまで基幹ネットワークやサーバーだけに使われていた光ネットワークがコンピュータ全般に広がる。ハードディスクは磁気と光の「ハイブリッド記録」になる。光の独壇場と言える大容量リムーバブル・メディアは,従来技術の延長をやめ,まったく新しい光技術を採用する。最大でも数十Gバイト台に留まっていた光ディスクの容量が一気にT(テラ)バイト台に到達する見込みだ。
光コンピュータはいらない
これまでにも光技術をコンピュータに取り入れる試みはあった。演算,制御,記憶といったコンピュータの基本機能を光技術で実現する「光コンピュータ」である。しかし,その構想は半導体技術の向上により価値を失っていった。
光コンピュータは,レーザーやLEDなどの光源から出る光をレンズやシャッターなどの光学装置で制御して情報を処理する(図2[拡大表示])。データの入出力は2次元の画像だ。理論的には空気中を伝わる光の伝搬速度で処理できる。面と面の重ね合わせで処理が進むため,画像の重ね合わせや類似判定などを高速に実行可能である。
ただ光コンピュータは,さまざまな面で通常のコンピュータより見劣りする。例えばプログラムによって処理の内容を変えられない。「画像処理など半導体のコンピュータに勝る場合もあるが,一つのことしかできない」(筑波大学大学院物理物質科学研究科電子・物理工学専攻の谷田貝豊彦教授)。しかも結局のところ光学系の制御に半導体部品やそれを使ったコンピュータが必要になる。「しきい値や条件分岐の制御に電子回路が欠かせない」(大阪市立大学大学院工学研究科の宮崎大介講師)。すべて光で処理できなければ「同じ性能のコンピュータを電子部品で簡単に製作できる。光で処理する必然性がなかった」(フェムト秒テクノロジー研究機構常務理事の桜井照夫研究所長)。