八幡勇一の「キーボード論」【後編】(中)クリック感調節の自由度を決めるスイッチ機構キーボードの使い心地という点では,キーの「押し心地」が重要な位置を占める。これはキースイッチとその保持構造で決まる。一般に使われているものは,メンブレン・スイッチにゴムのバネ(ラバーカップ)で保持する機構だろう。 まずキースイッチから見ていこう。キーボードのスイッチは,接触式のものと非接触式のものがある。接触式のキースイッチは,メンブレン・スイッチと接点スイッチがよく使われている。 メンブレン・スイッチは,フィルム上に導電性のペースト(銀とカーボン)の回路パターンを印刷したシートを,絶縁するスペーサを間に挟んでスイッチとしたものである(図4[拡大表示])。印刷技術の応用であるため大量生産に向き,1枚のシートに100個以上のスイッチを一度に印刷できるためコストが低い。ただし押し心地を調節する自由度はあまり高くない。接点が平面上にあるため,スイッチをオン状態にするにはキーをメンブレン・スイッチに接触するまで打ち抜く必要があるからだ。打鍵していない文字が入力されてしまう「ファントムキー」現象を防ぐための回路を入れ込みにくいという構造上の制約もある(別掲記事「4文字超のキーの同時打鍵が難しい理由」を参照)。 接点スイッチであれば,接点の位置を変えることで押し心地を調節できる。接点スイッチは金属片によって機械的にオン/オフするスイッチである。板状のバネやスプリングを使い,接点の絶縁と接触を制御する。バネやスプリングの形状によって接点の位置を変えられるため,オン状態になるまで打ち抜く深さを考えるなどの調節が可能だ。事実,板バネの形状やスプリングの種類によってさまざまな製品がある*1。 接点スイッチと同じく押し心地調節の自由度が高いのが,接点のない非接触式のキースイッチである。キーをスイッチに接触させなくてもオン/オフを制御できるため,押し心地とスイッチの入るタイミングを個別に設計できる。キーの打鍵によって接点が摩耗するメンブレン・スイッチや接点スイッチと比べて,信頼性の面でも有利だ。ただしコストは高い。コスト高が許されるキーボードでは,「リードスイッチ」や「静電容量スイッチ」などの非接触式スイッチが使われている*2。 リードスイッチとは,磁化した接点をガラス管の中に封入し,外部から永久磁石で駆動するスイッチである(図5[拡大表示])。永久磁石が近づくと,接点同士が磁力によって接触して通電する仕組みになっている。ガラス管内に封入されているため腐食しにくく,接触による摩耗もほとんどない。 静電容量スイッチは,絶縁体を挟んだ金属に蓄えられる電荷の変化を利用する。静電容量は金属同士を近づけると大きくなり,遠ざけると小さくなる。この性質を利用して,キーのストロークによる静電容量の変化によってキーのオン・オフを判別する(図6[拡大表示])。構造的にファントムキーが発生しないのも特徴である。各キーの静電容量の変化を読み取るため,キーが上下に移動したときしか信号が発生しないからだ。 静電容量スイッチは,ゴムのバネと組み合わせた形でIBM PCやIBM PC XT,米Sun Microsystems社やソニーのワークステーションで使われていたことがある。現行製品としては,東プレ製のキーボードだ。東プレの静電容量スイッチはキー側の金属として円錐形のスプリングを使い,これにゴムのバネを組み合わせることで独特のクリック感に仕上げている。
出典:2004年4月号
93ページ
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