無線区間ではリソースを有効に使う

図4●3G技術で使用する多重方式の比較
4-1が1xEV-DOで採用しているTDM(時分割多重)。時間ごとにスロットをユーザーに割り当てて最大電力で通信する。4-2は1XとcdmaOneやW-CDMAのCDM(コード分割多重)で,拡散コードで端末を識別して音声とデータを一緒に送る。4-3は今後の拡張技術である1xEV-DVやW-CDMAで採用予定のHSDPA。音声とデータをCDMで送り,残った電力分でTDMを使って高速データを送る。この高速データの伝送には,TDMのほか適応変調方式やHybridARQ,スケジューラなど1xEV-DOに実装された技術がそのまま活かされている。
図5●HybridARQの仕組み
HybridARQでは,データを誤り訂正符号で符号化してフレーム化してから,DRCで決められた数のスロット数の分だけ送信する。復号に成功した時点で残りのスロットは破棄し,次のフレームにスロットを割り当てる。
表●DRC 情報
電波環境が良い時ほど,値の大きなDRCで通信できるようになる。
図6●プロポーショナル・フェアネスの仕組み
端末ごとに「DRC/送信したデータ量」の値を算出し,その値の最も大きな端末にスロットを割り当てていく。端末Aと端末Bが同時にエリアに入ってきた場合,端末Aの方がDRCが高いので優先的にスロットを割り当てる。

 1xEV-DOは無線の使い方も工夫している。データ通信だけを見た場合,時分割で周波数帯域をシェアするほうが無線リソースを有効に使うことができる。各基地局は,常に最大電力で通信できるからだ。

 1xEV-DOでは,周波数資源をスロットと呼ばれる1.67ミリ秒の時間単位に区切り,スロット単位でデータ伝送する。この方式を時分割多重(TDM)伝送方式と呼ぶ。時分割多重にすれば各瞬間の資源(電力や拡散コード)すべてを1台の移動機が余すことなく使える(図4-1[拡大表示])。基地局は常に最大電力を送信し,刻々変化する伝搬状況に応じて伝送速度を変化させている。

 時分割多重とは別の方法として,移動機に拡散コードを割り当てて多重する方法もある(図4-2[拡大表示])。cdmaOne/1XやW-CDMAが採用する方式である。こちらの方式では,音声通話とデータ通信を同じように扱う。同一の帯域を同時に複数移動機で共用することになるが,それぞれの端末は自分だけに割り当てられているユニークな拡散コードで拡散/逆拡散して送受信することで,干渉の影響を受けずにデータをやり取りできる。

 だが,拡散コードで多重させる方式は,無線リソースの使い方が必ずしも効率的であるといえない。移動通信では電波伝搬状況が刻々激しく変化するので,移動機が送信電力を細かく変えなければならないからだ。図4-2のグラフの変動は,移動機が場所を変えているため,基地局から遠い場所にある場合は送信電力が上がり,近くなれば送信電力が下がることを示す。このように送信電力が上下することを考慮しなければならないので,基地局は必ずしもすべての無線リソースを使い切れていない。

 今後の3G拡張技術として提案されている別の方式もある。それらは図4-1と図4-2とを組み合わせた折衷方式となっており,CDMA2000 1xEV-DVやHSDPAと呼ばれる方式である(図4-3[拡大表示])。特徴は音声と高速データを同時に扱えること。図を見ると分かるように,音声と低速データをコード多重し,残った電力をすべて高速データ通信に割り当てている。

受信品質に応じて符号化を変える

 1xEV-DOの特徴としては,TDM伝送に加え,効率の優れた変調方式/符号化方式を採用していることがある。移動機が自分宛てのスロットを受信する際に,基地局から近く受信品質が良い場合は,スロットに効率よく多くのデータを詰め込めるようになっている。受信品質に応じて無線変調方式や符号化方式を変化させるのだ。これを適応変調符号化方式と呼ぶ。

 具体的には,無線変調方式としてQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)のほかに16QAMや8PSKといった効率の高い変調方式を使用する。移動機は1.67ミリ秒ごとに受信品質を測定し,その品質で受信可能な変調方式や伝送速度を決定する。決定した情報をDRC(Data Rate Control)信号として基地局に対して通知する。基地局はすべての移動機から送られてきたDRC情報に基づいて,次の瞬間のスロットをどの移動機に割り当てるかを決める。DRC情報は変調方式と符号化速度の組み合わせなどによって12種類ある。このため,取りうる伝送速度は38.4k~2.4Mビット/秒までと広範囲に渡っている([拡大表示])。

 受信環境が最も良い場合はDRCは12となる。この場合,受信側の伝送速度は2.4Mビット/秒となる。反対に受信環境が悪い場合は,複数のスロットを一括して使うことで,低速ながらも確実にデータ転送できるように工夫している。

 伝送効率を向上させる手段としては,HybridARQ(Automatic Repeat re Quest)と呼ぶ方式を組み合わせている。一般的に無線区間においてはエラーの発生が避けられないため,エラー発生時に自動的に再送する仕組み(ARQ)を備えている。加えて1xEV-DOでは同じ情報を繰り返し送信することでエラーに対する耐性を高めている。

 具体的なHybridARQの仕組みは図5[拡大表示]のようになっている。例えばDRC情報が3(伝送速度153.6kビット/秒)の場合,基地局ではもともとの情報データを強力な誤り訂正能力を持つターボ符号を使用して,冗長度を持たせた上で4スロットにして伝送する。移動機では受信したスロットごとに復号を試み,復号失敗した場合はNAK,成功した場合はACKを基地局に通知する。

 無線区間の電波環境は時々刻々と変化しているため,受信品質を計測したときよりも環境が改善されている場合がある。このような場合には,4スロットを送信するはずだったが,3スロット目を受信した段階で復号に成功する。基地局ではこのとき余ったスロット(S4に割り当てるべきスロット)を無駄にすることなく,他のユーザーに配分できる。

 図5では,復号に成功した3スロット目を見ると,S1+S2+S3と書いてある。これは,復号失敗したスロットであっても,捨てずに順に足し合わせていることを示している。つまり,復号に失敗しても何らかの情報量を持つのでバッファに格納しておき,次のスロット受信時に合わせて復号を試みているのだ。

スロットの割り当てを最適に

 基地局では,移動機にどのタイミングのスロットを割り当てるかを工夫している。この仕組みを「パケット・スケジューリング」と呼ぶ。1xEV-DOの場合にはセクター全体のスループットが最大となるよう,「プロポーショナル・フェアネス」という方式を採り入れた(図6[拡大表示])。

 プロポーショナル・フェアネスは,移動機の電波状態に応じて割り当てるデータ量を変化させ,効率と公平さを同時に実現するようにスロットを割り当てる技術である。良好な環境にある移動機にはなるべくその間により多くのビット数を伝送することで,短時間で伝送を完了させる。ただし各移動機への送信履歴を参照し,過去に多くのデータを送信している場合には優先度を落として,データ送信量の少ない移動機にスロットを割り当てるよう「公平性」を保つ。

 これ以外のスケジューリング方法もある。移動機ごとに順次スロットを割り当てる「ラウンドロビン」,電波環境によらず移動機間で割り当てられるビット数を同一とするような「フェアネス」などだ。

 1xEV-DOは複数の移動機で資源を共有しているが,プロポーショナル・フェアネスを採用しているため,1台しか接続していない場合は全スロットを占有できるだけでなく,誰かが通信を開始したら,即座にその端末にスロットを割り当てる柔軟性を兼ね備えている。

渡辺 文夫 Fumio Watanabe

KDDI au技術本部 ワイヤレスブロードバンド開発部長。1980年東京工業大学大学院博士課程了,同年KDD入社。研究所において,アンテナ,衛星通信システム,移動体通信システム等の研究開発を担当。2001年よりKDDI 無線アクセス技術部長として,CDMA2000 1Xおよび1xEV-DOを含むauの無線インフラのシステム開発,導入を統括。2004年4月より現職にて次世代ワイヤレスブロードバンド通信システムの導入検討・開発の指揮を執っている。モバイルITフォーラムシステム専門委員長。ユビキタスネットワーキングフォーラムどこでもNW専門委員長。工学博士。

松田 浩路 Hiromichi Matsuda

KDDI au商品企画本部 プロダクト統括部 商品戦略グループ 課長補佐。 1996年京都大学大学院修士課程了,同年KDD入社。衛星通信システムの開発を担当し, 特にTCP伝送の最適化やIPマルチキャストに注力。ITU-R標準化活動にも従事。 2001年から1xEV-DOのシステム検証および上位レイヤーとの親和性を重視した品質 検証を手がけた後、現在はau端末の商品企画を担当している。