IMT-2000が標準化されたのは2000年。屋内(静止状態)で2Mビット/秒,歩行時に384kビット/秒,高速移動時(車などでの移動時)に144kビット/秒という高速性を実現する規格である。ただし,世界中で使えるという国際ローミングはまだ達成されていない。
IMT-2000として定められている方式は五つある(図1[拡大表示])。一つの端末を世界中で使えるようにするという考えから方式を一本化しようとしたが,調整がつかず,最終的に複数の方式を認めることになった。「規定しているのは無線インタフェースの部分であり,有線部分であるコア・ネットワークの詳細な規定はない。コア・ネットワークについては標準を基に仕様作成団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)と3GPP2が仕様書の中に盛り込んでいる(図2[拡大表示])。これらは継続的に改訂され,各国の標準やITU勧告に反映されている」(KDDI au技術本部の渡辺文夫無線アクセス技術部長)。
技術的にはFDDが先行
日本では,NTTドコモとボーダフォンがCDMA DS(CDMA Direct Spreading)方式であるW-CDMA,KDDIがCDMA MC(CDMA Multi Carrier)方式であるCDMA2000をそれぞれ採用した*1。どちらも端末の通信チャネルごとに拡散コードを割り当てて多重するCDMA方式を使う。
CDMAにはFDD(周波数分割複信)とTDD(時分割複信)という二つのモードがある。FDDは,上りと下りを別々の帯域を使って通信する方式。TDDは同じ帯域を使い,時間ごとに上りと下りを切り替える方式だ。
日本でサービス中の第3世代携帯電話はすべてFDDである。日本以外の各国でもFDDを採用する国が多い。
FDDが多く採用されている理由としては,TDDよりFDDの方が技術的に先行していたという事情がある。「IMT-2000を議論していた当時,TDDには解決できていない問題があった。TDDは同じ周波数帯で上りと下りの通信をするので,多数のデータの中から自分のデータだけを取り出す技術が複雑になる。拡散コードがそれぞれきちんと直交性を保つことが難しくなるのでJoint Detectionと呼ぶ特別な技術が求められたが,当時はまだ完成していなかった」(上智大学理工学部電気・電子工学科の服部武教授)。それでも,標準の一つとしてTDDがIMT-2000に加えられたのは「理論上の解決策は分かっていたので,TDDも将来的には実現可能と判断できた」(服部教授)からだという。
このほかにもTDDには,商用化を先送りしたくなる技術的な問題があった。TDDは基地局間で上りと下りの通信の時間を合わせるために同期を取る必要があったことだ。タイムスロットを使って時分割で運用するため,隣接する基地局との間で同期を取らないと,上りの通信と下りの通信の時間が重なり,干渉が生じてしまう。同期を取った形でシステムを作ることが難しかったために,TDDが敬遠されたという見方がある。
コア・ネットワークはIPベースに
FDDを使った携帯電話サービスは,2001年から順次開始された。IMT-2000で目指した2Mビット/秒も実現し,すでにKDDIがCDMA2000 1xEV-DO(1xEvolution Data Only)という技術を使った携帯データ通信サービス「CDMA 1X WIN」を展開している。最大2.4Mビット/秒で通信できる。1X WINはデータ通信用ネットワークを,交換機ベースではなくルーターで構成するIPベースのネットワークにした。無線部分も各端末が効率良く通信できるような仕組みを採り入れた。伝搬状況によって変調方式を変化させながら無線リソースを割り当てるようにしている。
データ通信部分のネットワークをIP化するという取り組みは,NTTドコモも計画している。2004年度末までに,データ通信ネットワークの伝送路をIPベースにするという(図3[拡大表示])。「今のネットワークは,まだiモードがないときに設計したもの。伝送路をIP化すれば,コストの安い汎用のルーターを導入できるので設備コストを下げられる。2005年には音声もIPベースのネットワークにする」(NTTドコモコアネットワーク部の菊池太志コアネットワーク企画担当部長)。
NTTドコモの試算によれば,IP化で基地局のチャネル当たりのコストは約1/3になり,ルーターで構築するコア・ネットワークはIP化以前と比べて将来的に約1/10になる見込みである。