スキャナは原稿を読み取るための光学系の種類によって,縮小光学系(いわゆるCCD方式)と密着光学系(CIS方式)に分類できる。前者は上位機種に多く使われている。撮像素子の配列を工夫するなど,さらなる高画質化へ向け各社が独自の工夫を盛り込んでいる。一方後者は,安価で小型な機種に採用されている。スキャナ単体を応用した複合機も普及してきた。コピーやファクシミリにも使える機器として一般家庭にも浸透しつつある。今や,出荷台数ではスキャナ単体の製品を上回っているほどだ。

図1●縮小光学系の構造
原稿に反射した光をミラーで折り返しながらレンズに導き,撮像素子に結像させる。撮像素子の画素は3列に並んでいて,それぞれRGB3色のカラーフィルタがかけられている。
図2●密着光学系の構造
原稿に反射した光を,直下にある撮像素子で受ける。短い光路で結像させるために,細かな筒状のレンズを並べて使う。
写真1●密着光学系(左)と縮小光学系(右)のスキャナ本体の大きさの違い
左はキヤノンの「CanoScan LiDE 50」,右はセイコーエプソンの「GT-9400UF」。幅や奥行きはほぼ同じだが,高さは3倍ほど違う。
写真2●縮小光学系(上)と密着光学系(下)の読み取り部
光路を確保したり,多くの部品を配置する縮小光学系は読み取り部が大きい。上下とも,キヤノン製品に使われているもの。
写真3●密着光学系(左)と縮小光学系(右)の読み取り性能
本を開いて,同じページを読み取らせた。密着光学系は紙が原稿台から少し離れただけで,文字がぼやけてしまう。これに対して縮小光学系は,形はゆがんでいるものの,見開きの中央部にある文字もはっきり見える。

 スキャナは原稿面に照明を当て,その反射光を撮像素子で受け取って,画像データを生成する。大雑把な言い方をすれば,「平たいものに特化したデジタルカメラ」なのである。平たいものに特化したため,撮像素子の形状がデジタルカメラとは大きく違う。画素を横に並べたライン状になっている。これを水平方向に移動させながら,原稿をライン単位で読み取っていく仕組みである。

 撮像素子はデジタルカメラ同様,CCDとCMOSセンサーを使ったものがある。ただし一般にスキャナの実現方式として言われている「CCD方式」と「CIS(Contact Image Sensor)方式」は,撮像素子の種類の違いを表していない。原稿を読み取る光学系の違いを表現するために使われている言葉である。その意味で,「CCD方式」という呼び方は正しくない。CCD方式に使う撮像素子がたまたまCCDを採用することが多いため,こう呼ばれているに過ぎないのだ。

CCD/CISをめぐる誤解

 もう一つのCISは,スキャナの光学系の実装方式を示す言葉である。撮像素子を撮影対象に対して密着(Contact)するほど近くに配置する方式だ。密着光学系とも呼ぶ。撮像素子にCCDを採用したCIS方式のスキャナもある。

 CCD方式は,正確に言うと「縮小光学系」と呼ぶべきものだ。縮小光学系は,撮像素子の幅が原稿面よりも小さい。原稿に白色の光を当て,反射した光をレンズで集めて狭い幅の撮像素子に結像させる。反射した光は,ミラーで何度も折り返しながらレンズに導かれる(図1[拡大表示])。撮像素子の画素は3列に並べられているのが一般的だ。それぞれ,赤(R),緑(G),青(B)のカラーフィルタが付けられており,1列が1色分の色成分を感知する。

 縮小光学系のメリットは,カメラなどで使われるごく一般的な特性のレンズを使うことで,ピントの合う距離(被写界深度)を深くできることである。このため,原稿面と読み取り部の間に多少距離があってもきれいに読み取れる。

 半面,十分な距離の光路が必要になる。「50mm程度の幅の撮像素子に原稿面を結像させるとすると,大体200mmくらいの距離が必要」(PFUプロダクト本部イメージプロダクト事業部第二技術部の楠忠和プロジェクトマネージャ)。ミラーを使って光を折り返しているのはこのためだ。どうしても筐体が大きくなってしまう。

被写界深度の浅い密着光学系

 逆に密着光学系は,原稿面と読み取り部の距離が近く光路が短いので,小型化しやすい(図2[拡大表示])。密着光学系の場合,原稿に反射した光をすぐ下に配置された撮像素子を使って受け取る。小型化と省電力化のため,RGBそれぞれの光をLEDで照射する製品が多い。こうすればカラーフィルタが不要で,撮像素子は1列分の画素さえあれば済む。撮像素子には,CCDやCMOSセンサーが使われる。現状の製品には,CMOSセンサーのものが多い。

 撮像素子の大きさは,原稿と同じ幅になる。特定の大きさに結像させる必要がないためレンズはなくてもよいが,光をより効率よく伝えるために,レンズを使うのが一般的である。

 ただ通常のレンズとは異なるものを使う。密着光学系は,光路が10mm程度と短いからだ。「通常のレンズでもこの距離で結像しないことはないが,被写体が数mmの幅の像にしかならない」(セイコーエプソン情報画像事業本部情報機器企画設計部の百瀬喜代治主事)。これでは,原稿と同じ幅の像は結べない。このため,特殊な屈折率を持つ筒状の細かなレンズを並べ,その像をつなぎ合わせて1列分を結像させる方法が採られている。

 実物で比較すると,大きさの差は歴然だ(写真1[拡大表示])。読み取り部だけを見ても,ミラーなどの部品も不要なため,縮小光学系に比べて大幅に小さくできる(写真2[拡大表示])。

 密着光学系のもう一つの利点は,消費電力が少ないこと。元々密着光学系は読み取り部の大きさが小さいので,動かす電力も少ない。さらに光源としてLED,撮像素子としてCMOSセンサーを採用することで,より消費電力を減らせる。この結果,例えばキヤノンの密着光学系スキャナの現行機種は,どれも独自の電源アダプタを持たず,USBケーブルでパソコンから供給される電力だけで動作する。

 ただ被写界深度ではかなり不利になる。密着光学系に使われる筒状のレンズは,通常のレンズに比べて被写界深度が浅い。このため,原稿とレンズの距離が離れると急速に像がぼやけてしまう(写真3[拡大表示])。

(八木 玲子)