低価格なコンテンツで200万話の実績

 バンダイチャンネルは,「機動戦士ガンダム」シリーズや「装甲騎兵ボトムズ」,「カウボーイビバップ」など,過去にテレビ放映したアニメ番組の有料配信を行っている。2002年11月に開始し,2003年6月にはのべ200万話分を販売した。

 このサービスは,So-net,BIGLOBE,@nifty,OCNなど,15のインターネット・サービス・プロバイダを通じたブロードバンド向けのもの。それぞれのプロバイダの会員を対象とするストリーミング配信サービスである。

 バンダイチャンネルでは,価格設定を低くしてユーザーがコンテンツを買いやすくすることを重視した。「1話当たりの価格を100円にするというのは,サービスを企画するかなり早い段階で固まっていた」(バンダイチャンネル リーダーの安食孝徳氏)という。この価格は一般的なレンタルビデオの価格から割り出した。「2話収録されたビデオを1週間借りて300円程度というのがレンタルビデオの価格水準。それよりも安く,かつワンコインという気軽さで100円にしようとなった」と安食氏は語る。

 配信はすべてプロバイダに任せている。コンテンツの料金もプロバイダが接続料に付加する形で徴収しており,バンダイチャンネルが直接ユーザーに課金するわけではない。

 コピー・プロテクトも基本的にはプロバイダ任せだ。「特に我々からDRMの仕様を定義したりはしない。ただ,DRMは必ず入れてほしいと言っている。それだけだ」(安食氏)という。どういったプロテクトをかけるのかはバンダイチャンネルは指定せず,各プロバイダが判断している。「我々はコンテンツ屋なので,DRMの仕様を検討するよりも,おもしろいアニメを作る方に時間をかけたい」(コーディネイターの兼平友和氏)。DRMの仕様が問題なのではなく,コピー・プロテクトがかかっていることが重要ということだ。1話100円のコンテンツを配信するコストを考えると,あまり強いプロテクトをかけることもできないだろう。高度なDRMを導入することで,ユーザーの負担になるのを避けたいという意向もある。

 このサービスを始めた目的の一つには「お金を払ってネットワークで配信するコンテンツを見るという習慣を一般のユーザーの間に作りたかった」(安食氏)というのがある。その意味では,低価格路線とユーザーの負担にならないシステムにすることで,約7カ月間に200万話と結果を出しているといっていいだろう。

ゆるいDRMでファンサービスの配信

 ミュージシャンがプロモーションを目的に,最低限のDRMでコンテンツをインターネット配信する動きも出てきた。

 2003年7月末から8月初頭にかけて,GLAY,CHEMISTRYはそれぞれプロモーションを目的に,BIGLOBE,@niftyなどの大手プロバイダを通じて期間限定で初公開のライブ映像を配信するサービスを行った。

 「いずれのサイトも48時間限定にすることでプレミア公開という色を付け,集客を図った」(NEC BIGLOBEサービス事業部 第一サービスビジネス部 グループマネージャーの岡田 文一氏)。 ここではDRMはあまり重視されなかったようだ。

 GLAYの所属事務所の意向は,ファンサービスも兼ねたプロモーションで,初公開映像を目玉にするというもの。Windows Media Technologyを使ってストリーム映像を配信した。「ただ,この配信形態では90%のユーザーは楽しめるが,Macintoshユーザーなど10%は映像を見られない。GLAYサイドはなるべくたくさんの人に見てもらいたいので,この10%を救うためならばプロテクトをかけなくてもいいという姿勢だった」(岡田氏)という。実際,GLAYのケースではDRMによる暗号化を行わないで映像を配信した。

 CHEMISTRYの場合は,新曲のプロモーションを目的とした。ソニー・ミュージックエンタテインメントでは,2003年8月6日に発売するCHEMISTRYの新曲のプロモーション活動を7月上旬から開始。コンビニエンス・ストアの店内放送で先行オンエアしたのを皮切りに,有線放送でも先行公開した。これに続き,ラジオ放送での解禁に合わせて,7月31日から新曲のビデオクリップをインターネットを通じて,48時間限定で初公開した。この期間中は500kビット/秒のストリーミング配信で,フル・バージョンのビデオクリップを楽しめるようにした。暗号化はしたものの,プロモーションとして積極的にインターネットで映像配信を行おうとしたものだ。

 いずれも期間限定の無料コンテンツということもあり,コピー・プロテクトにさほどシビアになる必要はなかったという事情もあるだろう。だがこれらのケースに限らず,何をどのように見せればいいのかについて,コンテンツ・ホルダー側で整理が進んでいる傾向が伺えるという。また,「強固なDRMでガチガチに固めても,ビジネスにならないため,分け前がないという認識も広がりつつある」(岡田氏)ようだ。

 もちろん,プロダクションによっても考え方が違う部分はある。インターネットに所属タレントを露出させない方針の芸能事務所もある。ただ,違法コピーを恐れるばかりにコピー・プロテクトを強化する方向から,コンテンツ配信の使い方,ビジネスとしてのあり方を柔軟に考えるコンテンツ・ホルダーが現れてきたことは確かなようだ。

(仙石 誠,中道 理)