JEITA測定法で横並びの比較が可能に

表3●電源や筐体に関する仕様の読み方
図5●JEITAが2001年に取りまとめたバッテリ駆動時間測定規約「JEITAバッテリ動作時間測定法1.0」の測定方法
図6●表記が義務づけられている「エネルギー消費効率」の計算式
「エネルギーの使用の合理化に関する法律」,いわゆる省エネ法で規定されている。

 2001年になるまで,横並びで比較しにくい仕様が並んでいたのが表3[拡大表示]の電源関連の仕様である。指標が統一されていなかったのは,ノートパソコンのバッテリ駆動時間と消費電力の表記だ。バッテリ駆動時間の計測は,ユーザーの実使用をエミュレートする独自ツールを利用したり,広く使われている米Ziff Davis Media社のバッテリ・ベンチマーク・ソフト「BatteryMark」を利用したりと,メーカーによってまちまちだった。この状況を打破すべく,ユーザーが横並びで比較できるよう,パソコンメーカーの業界団体JEITA(電子情報技術産業協会)がノートパソコン用のバッテリ・ベンチマークを2001年6月に取りまとめた。これが「JEITAバッテリ動作時間測定法1.0」(以下JEITA測定法1.0)である。

 JEITA測定法1.0を策定し始めたとき,「BatteryMarkで測定するメーカーが一番多かったため採用を検討した」(JEITAモバイルコンピューティング事業委員会で主査を務めるNECクライアント・サーバ事業部第二製品技術部の臼井裕司主任)と言う。「BatteryMarkはワールドワイドでのスタンダード」(日本IBMポータブル・システムズ基本設計担当の横田聡一次長)であり,ヨーロッパや米国では,ユーザーの認知度が高い測定法だ。

 問題はプリインストールOSとなる日本語版のWindowsで正常に動作しない場合があることだった。ある時点で正常に動作したとしても,OSがバージョンアップするたびに不具合が発生する可能性がある。「Ziff Davis Mediaに継続的な日本語対応を交渉したが上手くいかず,採用をあきらめた」(NECの臼井氏)。また,JEITA内でバッテリ・ベンチマーク・ソフトを開発するという案は「メンテナンスのコストの面で難があった」(NECの臼井氏)ため見送った。

 そこでOSに依存しないベンチマークをJEITA加盟のメーカー16社で検討した結果生まれたのがJEITA測定法1.0である(図5[拡大表示])。「測定対象のパソコンで動作しないと商品性を疑われる機能」(NECの臼井氏)を使うというのが設計思想だ。具体的には,液晶の輝度は20cd/m2(カンデラ)以上,MPEG1の連続再生によってユーザー操作による負荷を想定した「測定法a」,画面の輝度は設定可能な最低値で無操作状態で放置することで省電力機構の性能を見る「測定法b」からなる。それぞれのバッテリ駆動時間を足して2で割った値が,JEITA測定法1.0に基づくバッテリ駆動時間の表記になる。「JEITA測定法1.0の値と,実使用を想定した自社測定の過去データを比較すると,だいたい同じ結果になった」(日本IBMの横田氏)という。

 パソコンの機能やユーザーの利用形態の変化を見越して,JEITAではJEITA測定法1.0の見直しを予定している。ただ「2001年12月のアンケートでは,特に改定の必要を訴えるメーカーはなかった」(NECの臼井氏)。横並びの比較だけでなく,時系列の比較ができることも性能指標に欠かせない要素であるため,一度決まった指標をそう簡単に変える訳にはいかない。JEITA測定法2.0が必要になる時が来るとすれば,それは有機EL搭載ノートパソコンが普及したときだろう。有機ELは自発光型のデバイスであるため,すべての画素が点灯した状態(白色表示)と消灯(黒色表示)した状態で消費電力が異なる。有機ELがノートパソコンの表示装置として普及するまでは,JEITA測定法1.0はバッテリ駆動時間の目安としてしばらく使われることになりそうだ。

同CPUで有効なエネルギー消費効率の比較

 JEITA測定法1.0に基づくバッテリ駆動時間と同様に,横並びで比較できる指標に「エネルギー消費効率」がある。カタログには必ずと言っていいほど記載してある値だ。というのも,「エネルギーの使用の合理化に関する法律」,いわゆる省エネ法により表示が義務づけられているからだ。

 エネルギー消費効率の値は,省エネ法が規定する測定条件に基づいて算出される(図6[拡大表示])。具体的には,メモリーの記録状態を保持したままのサスペンド状態の消費電力を,CPUの性能指標の一つである複合理論性能(MTOPS)で割った値がエネルギー消費効率になる。MTOPSは演算速度の理論値を表す数値のこと。輸出入規制の指標にも使われるためCPUメーカーがWebサイト上で公開しているなど,一般的な指標だ。電力をCPU性能で割っているため,サスペンド・モードの消費電力が小さく,CPUの処理性能が高いほどエネルギー消費効率が良いということになる。複合理論性能はCPUで決まることを考慮すると,CPUが同一の製品を比較するのであれば待機電力が気になるユーザーにとっては参考になる値だと言える。半面,ユーザーがパソコンを利用している間の消費電力で計算しているわけではないので,これを起動中の消費電力を見る指標としては使えない。

(高橋 秀和)