図1●カタログ表記が決まるまでの一般的な流れ
表1●CPU・チップセット関連の仕様の読み方
図2●米Intel社のCPUバス・クロック「800MHz」の意味
クロック信号は200MHzで,クロック信号に合わせて400MHzのストローブ信号を生成する。ストローブ信号と周期(位相)ずらしたストローブ信号のそれぞれの信号の変化に合わせてデータ信号をオン/オフすることで,800MHzで動作する。
 メーカーは自社のパソコンを特徴付ける仕様をユーザーにどうアピールするかに心を砕いている。個人向けのカタログでは,「何ができて何が楽しいのか,ユーザーが利用シーンを思い浮かべやすいように作る」(日立製作所ユビキタスプラットフォームグループ ユビキタスアプライアンス開発本部アプライアンスサポートグループ広報宣伝担当の石島直人主任)。一方企業向けのカタログでは,「企業ユーザーはパソコンの仕様に通じている」(松下電器産業テクノロジーセンター ハード設計第一チームの奥田茂雄主任技師)という事情から,CPUの動作周波数やハードディスクの容量といった部材の仕様を前面に押し出す。

 個人向けと企業ユーザー向け,ともに共通している基本姿勢は「見やすさと分かりやすさ」(複数のパソコン・メーカー)である。一読して製品の特徴が伝わらないようでは,カタログとしての意味がない。紙のカタログにはスペースの制約があるため,収めきれなかった仕様や筐体の外観図はWebサイトで公開する。「紙の制約をWebサイトで補う」(日本IBMユーザーエクスペリエンス・デザインセンター主任デザイナーの木村重之係長)。ユーザーからの問い合わせがごくまれな仕様は,他のユーザーにとって不必要な情報としてサポートセンターの内部資料とする(図1[拡大表示])。「ユーザーにとって情報量が多いのか少ないのか。それの見極めが永遠の課題」(日本IBM PC製品企画&マーケティング事業部PCマーケティングの小林雅樹氏)だ。メーカーが不要と判断して表記を見送った仕様の中身は,ユーザーにとっていわばブラックボックスになる。カタログに存在するブラックボックスの中身をこれから見ていこう。

システムバス800MHzの意味

 表1[拡大表示]に示したのは,一般的な表則と表記例および注意点である。ほとんどの部材が標準規格品であるパソコンの仕様表は,各社とも似通ったものになる。例えばCPUは動作周波数に比例して性能が上がり,キャッシュ・メモリーも多ければ多いほど体感速度が速くなる。チップセット名やビデオ・コントローラ名は製品名で一意に決まる。疑問の入り込む余地は少ない。

 ただ「分かりやすさ」を優先するあまり,本来の意味を削ぎ落とされている仕様も中には存在する。例えばPentium 4の場合,「システムバスクロック」の項目で「800MHz」と表記するのは,厳密に言えば間違いだ(図2[拡大表示])。システムバスは,CPUとメモリー間を結ぶバスのこと。FSB(Front Side Bus)という表記でなじみがある人もいるだろう。このFSBは実際に800MHzの「クロック」で動作している訳ではない。FSBのクロックの周波数は200MHzでしかない。これにストローブ信号と呼ばれる400MHz動作の同期信号を二つ使って,800MHzの周波数のデータ信号をやり取りする。ストローブ信号は,カメラのストロボのように,データを送受信するタイミングを伝える信号だ。文字通りクロックが常に同じ周波数で発信しているのに対して,ストローブ信号とデータ信号はデータをやり取りするときだけに発信する。

 FSBが133MHzのPentium IIIまでは,FSBの周波数表記は実際のクロックと同じだった。しかし800MHzのクロックを使ってデータをやり取りするには,信号の遅延や劣化が問題になる。クロックに同期してデータをやり取りする場合,送受信側ともクロックを基準にしてある時点での信号のオンとオフを判断する。クロックの周波数が高くなるほど,0と1(オンとオフ)を判別する時間的マージンが少なく,信号の遅延や劣化を補正するのが難しくなるのだ。また,高周波のデジタル信号による電磁波障害を避けるためにも,クロックの周波数は低い方が望ましい。常に同じ周波数で発信する信号線からは,特定の周波数帯域にノイズが発生する。ノイズを拡散させる目的で,Pentium 4ではクロックの周波数をわずかに変化させることで特定の帯域にノイズが集中しないようにする「Spread Spectrum Clocking」という機能を備えているほどだ。

(高橋 秀和)