これまで「パソコンと変わらない」と言われてきた10万円を切るPCサーバー。CPUはCeleronかPentium 4でハードディスクはIDEといった仕様は,確かにパソコンと同じだ。しかし廉価機と言えども「24時間365日稼働」を想定した設計が前提。限られたコストの中,マザーボードと筐体を中心にPCサーバーと銘打つに足る工夫をちりばめている。

図1●10万円を切る低価格PCサーバーの価格と最小構成の推移
ここにきてようやく実用的な水準に到達した。仕様と価格帯は製品発表時のもの。
図2●10万円を切る低価格PCサーバーとパソコンの違い
CPUとハードディスクはパソコンと同じ。チップセットとメモリーの校正,および筐体に違いがある。
表●最小構成で価格が10万円未満の主なPCサーバーの仕様
CPUはCeleron,ハードディスクのインタフェースはIDEで容量は40Gバイトという点は各社とも同じ。チップセットの違いによる64ビット/33MHz PCIスロット,ギガビット・イーサネット(1000BASE-T)の有無で差がある。表中の価格はいずれもOSなしの場合。
図3●低価格PCサーバーが採用する主なチップセットの機能
米Intel社のi845E,米Broadcom社のServerWorks Grand Champion SL(ServerWorks GC-SL)が2大勢力。ともにPentium 4とPentium 4コアのCeleron用のチップセット。ServerWorks GC-SL採用機では,64ビット/33MHzのPCIバス(同266Mバイト/秒)を利用できる
 CPUはCeleron 900MHz前後,メモリーは64Mバイト,ハードディスクは20Gバイト――こんな仕様が1~2年前の低価格PCサーバーの姿だった(図1[拡大表示])。CPUやハードディスクはともかく,少なくともメモリーを増設しなくては,サーバーとして快適に利用できない程度の仕様だ。

 この状況は2003年に入り一変する。2003年1月の日本ヒューレット・パッカードの値下げを皮切りに,日本IBMやNECがこれに対抗。メモリーが256Mバイトでハードディスクが40Gバイトといった,2002年では10万円を超えていた仕様のPCサーバーが約7万円で手に入るようになった。

 価格が下がった結果,低価格パソコンと同程度の価格になった。数年前の低価格PCサーバーは実質パソコンと何も違いがなかったこともあり,「パソコンをサーバーとして使うユーザーは少なくなかった」(デルコンピュータ エンタープライズシステムズマーケティング部の佐藤恵サーバブランドマーケティングマネージャ)。確かに,仕様だけを見ると「低価格PCサーバーよりも安価なパソコンの方が得」な面もある。製品の出荷サイクルの短いパソコンの方が,より動作周波数の高いCPUを備える時期が早いからだ。

 しかしPCサーバーはパソコンとは設計思想が違う(図2[拡大表示])。低価格モデルといえど,24時間365日稼働することを想定している。具体的には(1)エラー訂正機能付きのメモリー,(2)パソコンの2倍の帯域を持つ64ビット/33MHz PCIスロット,(3)放熱を意識した筐体,を採用している。

 製品開発時と出荷前の動作検証にかける手間も基本的に上位機と同じ。「サーバーは,安いからといって品質を落としていい製品ではない」(日本ヒューレット・パッカード インダストリースタンダードサーバ統括本部製品本部の牧野益巳本部長)と考えているからだ。その代わり「CPUの動作周波数の種類やハードディスクのメーカー数を絞る」(デルコンピュータの佐藤マネージャ)といった方法で動作検証のコストの増大を抑えている。

耐障害性で上位機に及ばず

 もちろん,価格の制約がある以上,上位のPCサーバーとは違う。特にハードウェアが故障した際の耐障害性に欠けるのが泣き所だ。冷却ファンやハードディスクが壊れたときに,それをリカバーしてくれる仕組みがない。上位のPCサーバーでは,機械部品を二重化して1台の故障をカバーできるようにする。きちんと動いていれば一つで十分なものを余計に用意するので,これを冗長化と呼ぶ。

 モノによっては後付で冗長化できる。例えば複数のハードディスクを利用して故障によるデータ消失を防ぐRAID(Redundant Array of Inexpensive Disks)注)。1台のハードディスクとRAIDカードを追加したミラーリング構成(RAID1)であれば,5万円前後の出費で耐障害性を高められる。一方,冷却ファンは後から追加するのは難しく,冗長化が困難だ。

 耐障害性で見ると,突然の電源断を防ぐ無停電電源装置(UPS)やシステム障害や誤操作などが引き起こすデータ消失を回避するバックアップ装置も低価格PCサーバーにはない。難点はUPSは約5万円から,バックアップ装置はおよそ10万円からと,PCサーバー本体に匹敵する価格帯にあることだ。それでも,「半数以上のユーザーはUPSとテープを購入する」(NEC クライアント・サーバ販売推進本部の浅賀博行マネージャー),「テープドライブを合わせて購入するユーザーが多数派」(日本IBM IA サーバー&PWS事業部製品企画の北原祐司担当)。

チップセットに違いがある

 パソコンとの違いで見ると,低価格PCサーバーを特徴付けているのは,チップセットである。64ビットPCIスロットとエラー訂正機能付きメモリーを搭載できるのはチップセットが対応しているからだ。

 このうちPCIスロットに関してはメーカーによって対応が違う。低価格PCサーバーで採用されているサーバ向けチップセットは大きく二つある([拡大表示])。米Intel社の845E(以下i845E)と米Broadcom社のServerWorks Grand Champion SL(以下ServerWorks GC-SL)である。いずれもPentium 4とPentium 4コアのCeleron用のチップセットだが,i845Eはパソコンでも採用されている。一方ServerWorks GC-SLは,その名の通り基本的にサーバー用である。

 i845Eを使うと,拡張スロットはパソコンと同じ32ビット,33MHz駆動のPCIバスになる。ServerWorks GC-SLでは,64ビット/33MHzのPCIを利用できる(図3[拡大表示])。64ビット/33MHz PCIの最大データ転送速度は266Mバイト/秒。32ビットPCIの最大133Mバイト/秒の2倍。

 i845E採用機があるのは,10万円を切る価格帯のPCサーバーでは64ビットPCIは不要という考えがあるからだ。「バックアップ用のテープドライブを接続するSCSIカードを増設しても,テープドライブの転送速度では32ビットPCIで十分」(NEC クライアント・サーバ事業部第一製品技術部の柴健司技術エキスパート)。実際,32ビットPCIで帯域が不足するのは,読み出し速度が50Mバイト/秒を超えるハードディスクを3チャネル以上接続可能なIDE RAIDや,上り/下りでそれぞれ1Gビット/秒(計250Mバイト/秒)で転送できるギガビット・イーサネットを増設する場合に限られる。

 ただこれらの用途にしても,64ビットPCIが本当に必要かどうか微妙である。本誌のテストでも,両者に大きな差は認められなかった(2003年6月号「ギガビット・イーサネットを測る」参照)。今回の製品でギガビット・イーサネットに対応しているものでも,その部分に64ビットPCIを採用しているものはない。どれも搭載しているネットワーク・コントローラ・チップは米Broadcom社のBCM5702や米Intel社の82540EMといった,32ビットPCIバス専用のコントローラを使っている。このため,32ビットPCIのみ対応のi845Eチップセット搭載機と,64ビットPCIに対応するServerWorks GC-SL搭載機の間で性能差が出ることはない。