「ノートパソコンの方がデスクトップ・パソコンより遅い」というイメージはいまだに根強い。この違いを検証するため,実際の製品を使ってベンチマーク・テストを実施した。
その結果分かったのは,ノートパソコンとデスクトップ・パソコンの性能差は,予想以上に縮まっているということだ。もはや「ノートだから性能が劣る」とは,ごく一部の小型ノートを除いて言えなくなっている。ノート/デスクトップに関係なく,その製品がどのようなコンポーネント部品を使っているかが性能に効いているのだ。
性能を決める四つの構成要素
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図1●パソコンの性能を決める四つの要素 ノートパソコンとデスクトップ・パソコンのそれぞれにおける平均的なスペックを示した。 |
製品の性能を決めるのは,CPU,メモリー,グラフィックス,ハードディスクの四つの構成要素である(図1[拡大表示] )。
CPUの性能は,同一ブランドの製品同士の比較なら,動作周波数(Athlon XP/モバイルAthlon XPの場合はモデルナンバー)が高いほど高性能である注1)。異なるブランドでも,Pentium 4,Celeron,Athlon XPの間では,動作周波数/モデルナンバーがある程度の目安になる。ただし,前述のようにPentium Mは,動作周波数が低くても性能が高い。
これまでノートパソコンに搭載できるCPUというと,デスクトップ用のCPUより性能が劣るのが当たり前だった。しかし今や差はない。売れ筋製品に搭載されているCPUは,ノートの方がデスクトップよりやや性能が低い程度。価格が20万円台後半から30万円台前半のハイエンド・ノートパソコンであれば,20万円以下の売れ筋デスクトップより高性能なCPUを搭載している。
メモリーもほとんど差はない。ノートもデスクトップも容量は256Mバイトが一般的だ。いずれも,ハイエンドの一部の製品が512Mバイトを搭載する。メモリーの種類もノートとデスクトップで差はない。PC2100のDDR SDRAMが主に使われている。
グラフィックスは,従来はノートとデスクトップで大きく差があった部分だ。主に3Dグラフィックス機能の差である。3Dゲームがノートでは遊べないことが話題になった時期もあり,「グラフィックスはノートの泣き所」と思っているユーザーはまだ多いのではないだろうか。
だが,その認識はもう古い。少なくとも,売れ筋のノートとデスクトップではグラフィックス性能にほとんど差はない。いずれも,チップセットに内蔵したグラフィックス機能を利用していることが多いからだ。スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI for Windows」など高い3Dグラフィックス性能を要求する一部のゲームを除き,売れ筋のノート・パソコンでもほとんどの3Dゲームが問題なく動作する。
差が出るのはハイエンド同士を比較した場合だ。市販されているノートに搭載されているグラフィックス・チップで最も性能が高いのは,カナダATI Technologies社の「MOBILITY RADEON 9000」。一方,デスクトップ向けのハイエンドは同社の「RADEON 9700 PRO」である。この両者には2倍程度の性能差がある。
ノートが性能面でデスクトップより絶対的に不利な点があるとすれば,ハードディスクの性能だろう。ノートパソコンは,デスクトップで使われている3.5インチ型ハードディスクは大き過ぎて搭載できない。したがって2.5インチのハードディスクか,より小型の1.8インチ型を使うことになる。実はハードディスクの場合,小型になるほど性能面で不利になる。ディスクの半径が小さくなれば,最外周の円周が短くなり,転送速度が落ちてしまうからだ。
また,小型のハードディスクは大型のモーターが使えないため,一般に回転数も低い。3.5インチ型では5400回転/分が一般的で,高性能デスクトップ・パソコンでは7200回転/分の製品も使われている。これに比べ,2.5インチ型では4200回転/分が一般的だ。ただ,最近は5400回転/分の2.5インチ型ハードディスクも一部のハイエンド・ノートで使われ始めている。現在の1.8インチ型は4200回転/分である。実際テストしてみると,およそ10%程度の性能差があった。アプリケーションの起動時間など,CPUの性能よりもハードディスクの差は体感できる。
ノートPC18機種の性能をテスト
では,テスト結果を詳細に見ていこう。今回ベンチマーク・テストを実施したのは,18機種のノートパソコン注2)。内訳は,Pentium M搭載機が7機種,価格が20万円台後半以上のハイエンド機が5機種,20万円以下の売れ筋製品が3機種,小型軽量のモバイルノートが3機種である。
これらの性能の水準を把握するため,ハイエンドとローエンドの2種類のデスクトップ・パソコンも用意した。ハイエンドとしては,デルコンピュータの「Dimension 8250」を用いた。CPUは,ハイパー・スレッディングに対応したPentium 4 3.06GHz,メモリーは512MバイトのPC1066 RambusDRAM,ハードディスクは7200回転/分で,グラフィックス・カードには「RADEON 9700 PRO」を搭載する注3)。店頭などで普通に入手できる製品としては最高の水準だ。ただハイパー・スレッディングが有効だとテストが動作しなかったため,今回は無効にした。一方,ローエンドとしては2003年4月号特集1「パソコン価格のからくり」で自作した低価格パソコンを用いた。ただし,主記憶容量が128Mバイトではベンチマーク・テストが動作しなかったため,256Mバイトに増設した。
ビジネス・アプリ実行性能は問題なし
アプリケーション・ソフトの実行性能は,米BAPCoのベンチマーク・テスト「SYSmark2002」で測定した。テストは大きく二つある。ビジネス・アプリケーション使用時の性能を示す「Office Productivity」と,インターネット・コンテンツ作成用アプリケーションを使用した際の性能を示す「Internet Content Creation」である。
Office Productivityの結果を見ると,ノートパソコンの性能はデスクトップのハイエンドとローエンドの間にほぼ収まっている(図2[拡大表示] )。モバイルノートのみ,少しデスクトップのローエンドより低い程度である。ローエンド機が搭載するDuron 1GHzと256Mバイトのメモリーでも,一般のアプリケーションを動作させるには十分。一部のモバイルノートを除けば,ビジネス・アプリケーションの実行に問題はない。