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ハードディスク---既存技術はいよいよ限界に,2004年に垂直磁気記録へ(下)ルテニウム層でデータ消失を回避
磁性体粒子を小さくすると,必然的に体積が減る。ここで問題になるのが熱ゆらぎと呼ばれる現象だ。熱ゆらぎとは,熱エネルギーの影響で磁化した記録ビットの情報が失われる現象だ。ノイズのように読み取りが難しくなるというのではなく,熱ゆらぎ現象ではデータそのものが失われてしまう。 熱ゆらぎ現象のメカニズムを図7[拡大表示]に示す。異なる磁界の向きを持つ磁性体粒子が隣接するところでは,磁化異方性エネルギーが発生する。いわば磁石の同極が反発し合う力というイメージだ。粒子が持つ磁気エネルギーは磁化異方性エネルギーと粒子の体積の積である。一方,周辺から影響を受ける熱エネルギーはボルツマン定数と温度の積である。磁気エネルギーが熱エネルギーよりも高ければ熱の影響を受けないが,これよりも低くなると磁気エネルギーが熱エネルギーに消されてしまう。 熱ゆらぎ現象を避けるには,強い磁力を持つ磁性体を使うか,粒子の体積を増やさなければならない。だが,「ヘッド,メディアともに,量産可能な磁性体としては最も磁力の強い材質を用いている」(TDKの松崎氏)ため,磁化異方性エネルギーを高める方法はない。体積を増やすとなると,記録密度の向上に必須の粒子の小型化との間に矛盾が生じてしまう。
そこで考案されたのが,小さい粒子のまま高い磁化異方性エネルギーを維持するメディア構造である(図8[拡大表示])。記録層となる磁性体膜のほかに,1層ないし2層の磁性体膜を使う。それぞれの磁性体膜の間に反強磁性体であるルテニウムの膜をはさむ。 記録層の磁界はルテニウム膜を通過することで磁性が反転する。これによりルテニウム膜直下の磁性体膜では,記録層の磁性と逆向きの磁界を持つ。逆向きであるため,記録層の磁界を安定的に保つことができる。つまり安定化層というわけだ。記録層以外に2層の磁性体膜を使う場合は,一つめの安定化層を安定させるために,もう1層の磁性体膜が使われる。 米IBM社(現在は同社のハードディスク部門は米Hitachi Global Storage Tecnologies社に吸収されている)の「ピクシー・ダスト」,富士通の「SFM構造」など,メーカーによって名称は異なるが,ルテニウムを使って記録層の磁界を安定させる技術は広く用いられている。現在では,2層の安定層を設ける構造が一般的である。 垂直磁気記録は2004年後半以降
これまでは1年で2倍という伸びで記憶容量が増えていたが,今後はその成長は鈍くなることが確実視されている。実用的な材料としては最強の磁力を持つ磁性体を用いており,ヘッドやメディアの改良により記録密度が磁性体そのものの限界に近づきつつあるためだ。 そこで,将来性のある高密度化技術として期待されているのが垂直磁気記録方式である。現在の面内記録方式はメディア面と平行な磁界を持つ。垂直磁気記録では90度向きを変え,メディア面に対して垂直の磁界を持つ(図9[拡大表示])。 垂直磁気記録のメリットは,隣接する磁性体結晶が相反する磁界を持っていても,それが互いに影響しにくいためである。むしろ,反対方向の磁界を持っている方が,それぞれの磁界が安定する方向に働く。面内記録と異なり,膜厚を極端に薄くしなくてすむ。これにより粒子の体積を稼げるため,熱ゆらぎの影響も回避できる。 日立製作所によれば,100Gbpsiを実現するための磁性体結晶の大きさは,粒径9.5nm,膜厚20nmである。粒径は磁化転移点ノイズにかかわるため,面内記録も垂直磁気記録も同じレベルが求められるが,膜厚は2倍にできる。 ただ,2003年中は垂直磁気記録への移行は始まらないと見る向きが多い。「少なくとも今後1〜2世代は現行の記録方式で高密度化できる」(日本マックストアの斎藤氏),「100Gbpsiは面内記録で実現できる。ただ,200Gbpsiは無理」(日立製作所の高野氏)という。今のところ,面内記録方式の限界は150Gbpsi程度と見られている。 米Seagate Technology社は2002年11月に,垂直磁気記録方式で100Gbpsiを実現した装置のデモンストレーションを行い,合わせて2004年のなるべく早い時期に製品化すると発表している。ただ,垂直磁気記録への移行時期について,大半のメーカーは明確なロードマップは示していない。これまで面内記録方式はさまざまな段階で限界がささやかれながら,それを突破してきたという経緯もある。今後もしばらくは面内記録がどこで頭打ちになるかを探る展開が続きそうだ。 (仙石 誠)
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