ハードディスクはパソコン,サーバーに限らず,家庭用ビデオレコーダ,携帯型音楽プレーヤなどへの搭載が本格化し,用途が広がりつつある。ハードディスクの進化は記録密度の向上である。記録密度の限界が問題になるたびに,既存技術の改良でその壁を乗り越えてきた。ただ,今後1~2世代の新製品は現在の技術の延長で実現できるが,理論的な限界に近づいているため,新しい記録方式が必要になってきた。

図1●ハードディスクの基本構造
情報は磁気ディスクに記録される。情報の書き込み,読み出しは磁気ヘッドを通じて行われる。ハードディスクの容量は,ヘッドとディスクの性能で決まる。
 ハードディスクで最も重視されるのは記憶容量である。新規にパソコンを購入するユーザーが最も気にするのは,CPUの動作周波数や主記憶の搭載量ではなく,ハードディスク容量だといわれている。パソコンにテレビ放送の録画機能が付いていることも珍しくなくなり,民生用のハードディスク・レコーダも次々と登場している。

ディスクとヘッドが容量を決める

 ハードディスクは,物理的なサイズにより,デスクトップ・パソコンやサーバーなどで用いられる3.5インチ型,ノートパソコンで主に使われる2.5インチ型,携帯用ノートパソコンや携帯音楽プレーヤ向けの1.8インチ型,CompactFlashカードに用いられる1インチ型の4種類に分類できる。

 ハードディスクの基本構造を図1[拡大表示]に示す。3.5インチ,2.5インチなどの数値は,磁気ディスクの直径を表している。磁気ディスクをプラッタと呼ぶこともある。ディスクが小さくなるに従って1枚当りの記憶容量は低下する。情報を記録する面積が小さくなるためだ。2.5インチ型の場合,3.5インチ型の約半分の記憶容量となる。ハードディスクの主な技術革新は3.5インチ型向けに進められ,その後で小型ドライブに転用されていく(別掲記事「小型ドライブがより一般的に」参照)。3.5インチ型が内蔵するディスクの枚数は1~4枚で,製品によって異なる。1.8インチ型や1インチ型は,ドライブ全体を薄くするために多くても2枚しか内蔵できない。

図2●大容量化と高速化のポイント
大容量化は記録密度を向上することで実現する。高速化に関しては,ディスクの1分間当たりの回転数,平均シークタイム,記録密度が重要な役割を果たす。

 内蔵できるディスクの枚数は限られているため,ハードディスクの容量を上げるには,磁気ディスク1枚当たりの容量を上げなければならない。また,性能面では転送速度も重要だ(図2[拡大表示])。

 磁気ディスク1枚にどれだけの情報を記録できるかは,1ビット分の情報をどれだけ小さい領域に記録できるかで決まる。1ビット分の情報が書き込まれた部分のことを記録ビットという。記録ビットは同心円状に何列も並んでいる。この列のことをトラックという。記憶容量はディスク上にどれだけのトラックを設けられるかと,トラックの同じ長さの区間にどれだけの記録ビットを設けられるかで決まる。これをディスク全体で見る場合,1平方インチ当たりのビット数(bits per square inch:bpsi)で記録密度を示す。

 情報は磁気ディスクの両面に記録されている。このため,ディスクの容量をフルに使うには,ディスク1枚当たり二つのヘッドが必要になる。価格を抑えるために,ヘッドを一つだけにしてディスクの片面だけを使うこともある。

記録密度が左右する転送速度

 ハードディスクの転送速度は,平均シークタイム,回転数,記録密度で決まる。この転送速度はハードディスク内部でのデータ転送に関するもので,内部転送速度という。

 平均シークタイムは,ヘッドが目的のトラックまで移動する時間のこと。ヘッドはサーボ機構によりディスク上を移動する。移動したヘッドは,目的の情報ビットがやってくるまで待つ。パソコン向けの一般的なハードディスクの場合,平均シークタイムは10ミリ~12ミリ秒である。

 回転数は,ディスクを回転させるスピンドル・モーターの能力に依存する。回転数が高いほど,ヘッドが回転を待つ時間を減らせる。3.5インチ型では,毎分5400回転が一般的。性能を重視したモデルには毎分7200回転という製品もある。サーバーなど特殊な用途向けには毎分1万回転,1万5000回転という性能を持つ製品もある。

 記録密度が高いと,特に連続した情報ビットを読み取る場合に転送速度が速くなる。ディスクが動いた量が同じであれば,記録密度が高いほどたくさんの情報を読めるからだ。

 平均シークタイムと回転数は,この2~3年で大きな変化はない。記録密度の向上は記憶容量だけでなく,内部転送速度の引き上げにも大きな役割を果たしており,「転送速度への要求には,記録密度の向上で十分応えられている」(日本マックストア 技術部 シニア・マネージャーの齋藤勉氏)という。

 ただ,記録密度の向上で内部転送速度が上がったため,従来のインタフェースでは転送が間に合わなくなってきた。そこで,Serial ATAという新たなインタフェースが使われ始めている。

小型ドライブがより一般的に

写真A●東芝の1.8インチ型ハードディスク
PCカード TypezKのハードディスク・カードから発展した1.8インチ型ハードディスク。左がディスクを2枚使用した20Gバイト・ドライブ。右はディスク1枚で容量10Gバイトである。
 記録密度の向上がハードディスクの大容量化,高速化を実現したことにより,従来よりも小型のハードディスクが一般化しつつある。1.8インチ型ハードディスクや,CompactFlashタイプのハードディスクなどである(写真A[拡大表示])。

 従来,ノートパソコン用には2.5インチ型ハードディスクが使われていた。だが,ここにきて松下電器産業の「Let'snote LIGHT」,NECの「LaVie J」,東芝の「dynabook SS」などの,重さ1kg前後のモバイル向けノートパソコンで1.8インチ型が採用されている。

 製造を手がける東芝では,「基本的には2.5インチ型と同じ技術を使っている」(デジタルメディアネットワーク社 ストレージデバイス事業部 ストレージデバイス商品企画部の川越誠司氏)という。現行製品では最も容量の大きい製品は,10Gバイトのディスクを2枚内蔵した20Gバイトの製品である。記録密度は約50Gbpsiである。

 1.8インチ型の採用が選んだのは,高密度化により小さいディスクサイズでも20Gバイトを実現できるようになったからだ。「パソコンに搭載する以上,やはり20Gバイト以上のドライブを用意する必要があった」(川越氏)という。

 同社はもともとPCカード型で容量2Gバイトのハードディスク・カードを2000年5月に発表した。だが,「PCカードである以上,カード側,本体側ともにコネクタが大きく,もっと小型化できないかという要望が強かった」。このため,薄さを維持したまま1.8インチ型ハードディスクとして製品化した。

 小型化は,省電力化と静音化というメリットも生む。2.5インチ型に対して,モーター駆動に必要な電力を減らすことができる。PCカードが基になっていることもあり,2.5インチ型が5Vの電圧を必要とするのに対し,1.8インチ型は3.3Vですむ。

 小型化の恩恵を受けるのはノートパソコンだけではない。携帯型音楽プレーヤなど,携帯性が高い小型デバイスでの利用が始まっている。「小型ドライブは,コンシューマ市場では移動体,産業用途でも従来ストレージを搭載していなかったシステム,例えば交通制御システムなどへの利用が広がっていくだろう」(TDKの松崎氏)と期待されている。


(仙石 誠)