図8●デスクトップ機のマザーボードに搭載されている主な機能
パソコンに最低限必要な機能が統合されている。
 マザーボードは文字通り,パソコンの母体となるものだ。CPUを初めとして,多くの機能がここに集約される。事実,低価格デスクトップ・パソコンの筐体を開けてみると,増設されたカードはモデム程度しかない。グラフィックス,サウンド,USB 2.0やイーサネットといった機能はマザーボードが備えている(図8[拡大表示])。マザーボードにCPUとメモリーを付け,ハードディスクと電源を接続すればパソコンとしての体裁が整ってしまう。

 機能の多くを担うのはチップセットだ。コスト面でもチップセットが多くを占める。マザーボードの価格は「コストの4割から5割を占めるチップセットで決まる」(ユニティ コーポレーション 営業企画部の湯口高薫氏)。

 一方,マザーボードの設計や製造にかかるコストも無視できない。マザーボードの部品点数は1300~1500にものぼり,「部品の在庫を管理するだけでも大変」(大手パソコン・メーカーの調達担当者)だ。ノートパソコンになると,部品同士の配線に使える面積が少ないために高価な基板(詳しくは後述)を使う必要がある。

 グラフィックスやイーサネットなどの機能を備える統合チップセットの採用と高価な基板をなるべく使わないこと。この2点が低価格パソコン用のマザーボードに求められる資質だ。

グラフィックスは1世代前の性能

 マザーボードは比較的マザーボード・メーカーの“言い値”が通りやすい。とは言え,パソコン本体の価格が下がるなか,マザーボードの価格も例外ではない。パソコンの低価格化を後押ししたのは1998年以降に出てきたグラフィックス回路を組み込んだチップセットである。台湾Silicon Integrated Systems(SiS)社を筆頭に,米Intel社,台湾Acer Laboratiories(ALi)社,台湾Via Technologies(VIA)社といった大手チップセット・メーカーがグラフィックス機構を相次いでチップセットに集積した。逆に米NVIDIA社や米ATI Technologies社などグラフィックス・チップのメーカーもチップセットに参入している。

 内蔵されるグラフィックス機構は,最新チップのほぼ1世代前のもの。最新のグラフィックス・チップと比較すれば3次元描画性能は低い。ただし,2次元の描画処理しかしないWebやメール,ビジネス・アプリケーションを使う程度なら十分だ。液晶ディスプレイとのデジタル接続に必要な「DVI(Digital Visual Interface)」回路も集積している。

 ただグラフィックス回路が発する熱の処理にコストがかかる。「チップセット・メーカーが提供する設計指針では,空冷ファンによる冷却が推奨されている」(台湾ASUSTeK Computer社東京事務所日本営業統括担当のAndrew Tsui所長)。そのため,チップセットに空冷ファンや大型のヒートシンクを付けるマザーボードが増えてきた。空冷ファンの追加はやっかいだ。故障によって動作しなくなるリスクを負ううえ,空冷ファン自体のコストも数ドルかかる。空冷ファンを省くには「熱の影響を独自に検証して安全性を確認する」(Tsui所長)といった設計上のコストが発生する。

サウンドとネットワークも統合

 次に始まったのが,サウンド機能とイーサネット・インタフェースの統合である。サウンドは1999年に「AC’97」仕様に準拠した米Intel社のチップセット「i810」が登場して以降は,サウンドの入出力コネクタをマザーボードに備えた製品が主流となった。

 2000年に入ると,2000年1月出荷のSiS「SiS 630」を皮切りに,Intel「i815E」など100BASE-TXイーサネットの論理回路を集積したチップセットが登場する。アナログ信号を生成するチップとコネクタを追加するだけでイーサネットのコネクタが追加できるようになった。同時に,サウンド機能は音声のチャネル数が2から6に増えている。6チャネル対応のサウンド機能を備えるチップセットが一般的になってからは,サウンドカードを増設したパソコンはほとんど見られなくなった。

基板は長方形,4層に

 マザーボードの土台となる基板自体のコストも価格を左右する。マザーボードの価格の10~20%を占めるからだ。1枚の板のように見えるマザーボードは複数の基板を貼り合わせた「多層基板」が使われている。現在主流となっているのは4層の多層基板だ(図9[拡大表示])。3枚の基板を貼り合わせて,配線層2層と電源層2層を設けている。これにより,マザーボードの表側の配線と裏側の配線をつなぐ穴(スルーホール)を開けることで,マザーボードに配置したチップに信号線や電源線を配線する自由度を2次元から3次元に高めている。6層や8層といった基板ではコストが高いため,サーバーやワークステーションなどの単価が高い製品にしか採用されていない。

 ただノート機では8層以上の基板が普通である。筐体の容積に合わせて,基板の面積を小さく抑える必要があるからだ。ところが搭載する部品やチップ自体はデスクトップ機と変わらない。そのため,配線に使える面積がデスクトップ機より小さい(写真3[拡大表示])。

図9●4層の多層基板の構造
マザーボードは表面と裏面に配線を立体的に配置するために多層構造の基板を使う。層の数が増えると,基板の枚数が増え材料コストが上がる。
 
写真3●ノート機のマザーボードの例。
筐体の容積に合わせて,基板の面積を小さく抑える必要がある。配線に使える面積がデスクトップ機よりも小さいため,ノート機では8層以上の多層基板が普通である。

 基板の形状も長方形ではない。PCカード・スロットや空冷ファン,電源回路などを配置すると,どうしてもマザーボードと重なる部分が出てくる。3cm前後の厚みに抑えるには,一部を切り取ってスペースを確保するしかない。もちろん,切り取った部分は無駄になり,コストに跳ね返る。

 逆に言えば,携帯性を無視した大きさであればデスクトップ機と共通の部材を使ってコストを下げられる。すでにCPUでは,ノート機向けよりも割安なデスクトップ機向けのCPUを搭載するノート機が増えている。これに続くのが長方形で4層基板のマザーボードの採用だ。例えばASUSTekは,デスクトップ機向けの4層基板マザーボードをベースにしたベアボーン・ノート「Degatto」を2003年3月に出荷する予定である。15型液晶パネルとCD-ROMドライブを内蔵するモデルで9万円を切る価格になる見込みだ。

(大森 敏行、高橋 秀和)