図1●価格決定の主導権を誰が持っているかは部品によって異なる
CPUやOSはメーカーが価格を決めるが,メモリーの価格は需給バランスの影響を大きく受ける。
 パソコンの原価は,部品価格を積み上げることで決まる。価格がどのように決まるかは,部品によって大きく異なる。「価格決定の主導権を誰が握っているか」が部品によって異なるためだ(図1[拡大表示])。

 部品メーカーがほぼ価格決定権を握っているのが,CPUとOSだ。これらは供給できるメーカーが限られているためである。CPUの価格は,基本的には米Intel社が自社の戦略に従って決定する。米AMD社はそれに競合できる価格を出してくる。CPUがIntel独占だった頃は,AMDはシェア獲得のために安価な製品を投入していた。そのおかげでIntel製CPUの価格も下がった。過度な安値競争は採算の悪化をもたらすため,最近はAMDも極端な低価格戦略を採ることはなくなった。

 ある動作周波数の新しいCPUが市場に出る場合,低価格品や省電力品などそれぞれのラインにおけるハイエンド製品として高い価格で投入される。時間が経つとより高い周波数の製品が出てくるため,ラインナップの中の位置付けに応じてほぼ定期的に価格が下げられる。

 OSはWindowsの独占状態なので米Microsoft社が価格を決定している。ただし,最近はLinuxという選択肢もある。事実米国ではLindowsというLinuxディストリビューションを採用した低価格パソコンが話題になった。

 CPUやOSほどではないが,マザーボードやハードディスク,光学式ドライブも比較的メーカーの意図を反映した価格になっている。

 マザーボードのコストの半分近くはチップセットのコストである。だからマザーボードの価格はチップセットの価格に大きく左右される。言い換えれば高価なチップセットを使った製品ほど価格が高い。主なチップセット・メーカーは3社程度と少なく,CPUと同様にメーカーが価格をコントロールしている。

 ハードディスクは機械部品が多いため,製造コストをある水準以下に下げることは難しい。このため,価格が製造コスト以下に極端に値崩れすることはない代わり,ハードディスク・メーカーにとっては利幅を取る余裕が少ない。光学式ドライブも同様だが,対応している規格によって価格が変わる。CD-ROM→DVD-ROM→CD-R→CD-R/DVDコンボ→記録型DVDの順に高くなる。記録型DVDの中では,DVD+R/+RW陣営はDVD-R/RWに比べて劣勢なため,戦略的に低価格でドライブを提供しているケースもあるようだ。

価格が乱高下するDRAM

 CPUやOSの対極に位置するのが,メモリーである。主記憶を構成するDRAMは市場動向の影響を大きく受ける。パソコン販売が好調で需要が多い時,あるいは供給不足の時には価格が大きく上がり,需要が少なかったり供給過多の時には大きく下がる。メモリーは時期による価格差が激しいため,仕入れのタイミングが難しい商品だ。CPUやマザーボード,ハードディスクなど多くのパソコン部品をパーツショップに卸しているシネックスも「価格変動についていけないため,メモリーだけは在庫を持たず発注ベースにしている」(同社の中村勝己取締役営業部長)ほどだ。

 DRAMと同じく,価格が市場動向の影響を受けやすいのが液晶パネルである。ただ,パソコン販売の好不調の波をもろにかぶるDRAMと違い,液晶パネルには液晶ディスプレイ単体の需要(CRTディスプレイの置き換え需要)が一定量あるため,DRAMほど極端に値崩れすることはない。

Windows XPには三つの製品形態がある

図●Windows XPの3種類の価格
提供形態によって価格が違ってくる。
 ハードウェアが低価格になるに従って,パソコンの価格におけるWindowsのコストが大きな比重を占めるようになってきた。マイクロソフトの現行OSであるWindows XPには,3種類の価格形態が存在する。一般ユーザーが目にできるWindows XPの価格は,店頭で販売されている製品版パッケージの価格だけだが,他にあと2種類ある。DSP版と大口顧客向けである。

 DSPとは「Delivery Service Partner」の略。マイクロソフトが自作パソコンやホワイトボックス向けに用意している製品である。パソコン販売店に行くと,グラフィックス・カードなどの製品は,箱に入ったパッケージ品と箱が付属しないバルク品の2種類がある。DSP版はちょうどOSのバルク品だと考えれば分かりやすい。

 エンドユーザーは単体でDSP版を購入できない。パソコン本体,CPU,主記憶,マザーボード,ハードディスク,CD-R/RWドライブのいずれかと一緒に購入する必要がある。DSP版は一緒に購入した本体あるいは部品でしか使ってはならないものである。パッケージ版はマイクロソフトのサポートが受けられるのに対し,DSP版は販売店がサポートするという違いもある。当然ながらDSP版は製品版パッケージより安い。Home Editionが1万2000円程度,Professionalが2万円弱程度で手に入る。ドルベースでは,Home Editionが100ドル程度,Professionalが150ドル程度と推定される。

 大口顧客向けは,大手パソコン・メーカーが米Microsoft社と直接契約を結んで大量購入するものだ。価格は個別の契約で決められる。基本的には購入量に応じて安くなると思われるが,DSP版との価格差は以前よりは小さくなっているという。だいたい2~3割引のようだ。

 店頭で販売されるパソコンはほとんどが大口顧客向けのものが使われているが,一部DSP版も使われている。例えば,エムシージェイの製品には,自社で製造している製品と韓国の大手パソコン・メーカーが製造している製品がある。エムシージェイ自体はMicrosoftと大口顧客向け契約を結んでいないため,自社で製造した製品にWindows XPをプリインストールする場合はDSP版を使う。一方,提携している韓国メーカーはMicrosoftと契約を結んでいるため,韓国製パソコンのWindows XPプリインストール・モデルには,大口顧客向けのものが使われている。ただし,韓国で製造したパソコンでも,CTO(Custom To Order)により国内で仕様を変更した場合はDSP版を使うという。

 なお,パソコンの価格には関係しないが,Windows XPにはあと二つの形態がある。ソフトウェア開発者向けにMSDN(Microsoft Developer Network)で提供されるものと,主に企業向けのボリューム・ライセンスである。


(大森 敏行、高橋 秀和)