自動車を運転しているとき,誰しも期待するのが目的地にスムーズに到達すること。これに応える情報を提供するには,現在の道路の混雑状況だけでなく,自動車がどう移動するかなどを考慮しなければならない。そのためには道路と自動車がネットワークで結ばれている必要がある。所要時間などを求めるには,実際に道路を走っている自動車から得られる情報が欠かせないからだ。すでにこの動きは始まっている。例えば大きな交差点の車線上には,交通情報を得るためさまざまなセンサーが置かれている。(写真1[拡大表示])。センサーから発射する音波や電波の反射,ビデオカメラで道路上を撮影した映像などから自動車がどれだけ通行しているのかを割り出すのである(図1[拡大表示])。

写真1●道路上に設置されたセンサー群
交差点の近くに設置されている。赤で囲った部分が赤外線を使って交通情報を自動車に送信する機器。
 
図1●自動車と道路の対話
道路上に設置している各種のセンサーと自動車はさまざまな経路を通して対応している。自動車だけではなく歩行者の情報も取得する。

 こうして集めた情報に基づいて交通状況を制御している。例えば,混んでいる方向の信号の青信号を長めに設定する。上り方向が混雑していれば,上り方向に多くの自動車が通過できるように前方の信号と協調してタイミングを調整する。街角にあるほとんどの信号機はネットワークに接続されている。これを各都道府県ごとに設置した交通管制センターで管理している。

 実世界の状況を短時間で反映させる効果は少なくない。待ち行列の理論を見ても分かるように,ちょっと処理量を上げるだけで行列は解消できる可能性がある。例えば東京都内では,15分ごとに信号のタイミングを見直していた。これを5分,そして2分30秒と間隔を縮めている。「制御の間隔を5分から2分30秒にしたら,12%ほど渋滞が緩和したケースがあった」(警察庁交通局交通規制課理事官の福本茂伸警視正)。

自動車が動き回るセンサーになる

 このような自動車の動きをセンターに伝えるのに,カーナビも重要な役割を担う。例えば,カーナビの画面や道路の交通情報板には,図2のように「靖国通りを使うと新宿まで20分,国道20号を使うと45分かかる」といった情報が表示される。これはVICS(Vehicle Information and Communication System)という情報サービスが提供するもの。この予想到達時間の計算に,カーナビが力を貸している。VICS対応のカーナビは交通情報を本体に接続している赤外線/電波の送受信器で得ている(写真2[拡大表示])。赤外線は一般に光ビーコンと呼ばれるもので,道路側の送受信器は国道や県道など幹線道路の交差点近くに設置してある。高速道路では電波を使う注1)

図2●目的地までの移動時間の表示
カーナビや道路上の掲示板に表示される。これは推定値ではなく,実際に移動にかかった時間に基づいている。
 
写真2●光ビーコンの自動車側の送受信器
一般に交通情報の受信専用と思われているが,自動車の識別番号などを道路の送受信器に送る機能を持っている。

 カーナビは光ビーコン送受信器の下を通過する際に,情報をもらうだけでなくカーナビが計算した情報を光ビーコンを使って逆に送信している。

図3●交通情報の収集と提供の経路
道路から得た渋滞情報や自動車から得た情報は交通管制センターに集められ,ドライバーに提供される。

 カーナビから送る情報は大きく二つ。一つは走行中の自動車を特定するためのID。これはエンジンをかけて,最初に光ビーコンを受けた際に与えられる注2)。もう一つは光ビーコン送受信器の間の移動時間である。例えば,光ビーコン送受信器のあるA地点からB地点に移動したとする。この場合,B地点ではカーナビから(1)自動車のID,(2)直前の通過地点(この場合はA地点),(3)直前の地点からの移動時間,を送信する。そして,カーナビは,(1)現在地点(B地点)の位置情報,(2)新たな交通情報,を受け取る。

 こうやって集めた情報を使うことで,2地点間の移動時間を割り出している(図3[拡大表示])。つまり,図2のように表示している情報は,実際に自動車が走行するのにかかった時間に基づいている。VICS対応カーナビが増えればそれだけ,道路を動き回るセンサーが増えて精度は高くなるだろう。ちなみに車載用光ビーコン送受信器は1996年から累計で約400万台を出荷している。

(大森 敏行,市嶋 洋平)