音質を決定付ける符号化方式

図6●IP電話における主な音声の符号化方法。
G.711(PCM方式),G.729(CELP方式)がある

 遅延以外にIP電話の音質を決定付ける重要な要素がある。音声をディジタル化する際の符号化方式である。これに関して,総務省は特に基準を定めていない。

 IP電話事業者のほとんどは,今の固定電話で使われているPCM方式を採用する。125マイクロ秒ごとに信号をサンプリングし,レベルを8ビットで表現する「G.711」方式である。この方式では1秒間の音声信号は64kビットのデータ(8ビット×8000回)に置き換えられる(図6上[拡大表示])。G.711で音声信号をリアルタイム伝送するには,IPヘッダなどのオーバヘッドがあるため,100kビット/秒程度の帯域を使ってしまう。

 回線の帯域が狭い場合はPCMとは別の符号化方式が必要になる。1秒間の音声を数kビットで再現するような高効率の符号化方式を使う。こちらは10ミリ秒ごとにサンプリングし,あらかじめ用意してある音声波形のパターンを割り当てる「G.729」という符号化方式が一般的である。G.729では,1秒間の音声信号は8kビットのデータで表現される(図6下[拡大表示])。

図7●IP電話端末をルータの内側のネットワークに置く場合の工夫。
フュージョン・コミュニケーションズの例(上)とアイピートークの例(下)

 データ量が多いだけあって,帯域が十分に確保されている場合はG.711を使った方がG.729より通話品質は高い。ただし,IP網の帯域が狭い場合は,G.711を使うと遅延やゆらぎの影響が大きくなり,結果的にG.729より聞き取りにくくなる。

ユーザ側の環境は変化なし

 050電話サービスを使うために,オフィスや家庭のネット環境を見直す必要はあるだろうか。家庭向けなら,電話機あるいはルータ(アダプタ)をVoIP対応のものに置き換えるだけでいい。ルータをVoIP対応タイプのものにするなら,そこに一般電話機をつなぐだけで済む。オフィスのLANにIP電話機(あるいはIP電話ソフト搭載のパソコン)に設置するようなケースなら,IP電話を外部のネットワークから直接呼び出せる状態にしておかなければならない。番号管理サーバ上で050電話番号に対応付けられるIPアドレスがグローバル・アドレスとなるためだ。ちょうどWebサーバを公開するときのようなルータ設定が必要になるかもしれない。

 ただしIP電話事業者の中には,ユーザ側の環境をできるだけ変えずにIP電話を使えるような仕組みを開発しているところもある。例えばフュージョンは,同社が提供するIP電話ソフトにある種のパケットを定期的に送出する機構を設け,端末と端末管理サーバ側のセッションを維持できるようにしている(図7上[拡大表示])。

 またアイピートークはIP電話ソフトと端末管理サーバのやり取りを工夫し,HTTPで着信を受け付ける仕組みを作った(図7下[拡大表示])。まず端末から端末管理サーバにHTTPのリクエストを送信する。この時点ではサーバから端末にHTTPのレスポンスを返さない。そして,呼び出しがあった時に,レスポンスを返して端末に着信を通知する。

中小規模のIP電話化を促進する逆TA

図A●IP電話を導入する際に問題となる構内交換機。
構内交換機のインタフェースがISDNのみの場合はアナログに変換する必要がある
 大企業では比較的IP電話の活用が進んでいる。ビル内の構内交換機をIP電話対応に交換したり,構内交換機のいくつかのアナログ・ポートをIP電話に接続するといった取り組みが可能であるからだ。

 ただし中小の事務所ではIP電話を導入するための障壁がある。「中小規模の構内交換機はインタフェースがISDN回線のみというケースが意外に多い。一方で中小規模向けのIP電話アダプタのインタフェースはアナログ回線用がほとんど」(アレクソン 営業本部長の中嶋康博取締役)なのだという。IP電話を導入するには,構内交換機をアナログ回線用に取り換えるか,交換機の内部にあるインタフェース・ボードをアナログ回線用に交換する必要があるのである。どちらも工事や変更作業が必要となり,数十万円かかってしまう。

 まもなく,これを回避する手軽な機器が登場する。アレクソンが開発したISDN回線インタフェースをアナログ回線に変換する「AIC100」がそれ(図A[拡大表示])。同社は逆TAと呼んでいるこの機器は,2003年3月に出荷を予定している。価格は約7万円になるという。AIC100は1回線分のISDNを2本分のアナログ回線に変換してくれる。あとはIP電話のアダプタを設置するだけでいい。ISDNの2回線を変換したければAIC100を2台用意する。

 IP電話を導入しても,外線からの着信を受けるためISDN回線は残す必要があった。今後050電話を契約すればIP電話で着信できるようになるため,ISDN回線を減らすことができる。

 ただしISDNの契約をすべて解約するのはやめた方がいい。IP電話が不通になった際のバックアップ,今のところIP電話で不可能な警察/消防への通話といった役割があるからだ。


(市嶋 洋平)