2003年夏,「050」で始まる11桁の電話番号の利用が始まる。インターネットにつないで使う電話のためにISPが割り振る電話番号だ。この電話番号が付いてあれば,いままで不可能だった固定電話や携帯電話/PHSからの着信が可能になる。しかも「050」番号を割り振るIP電話サービスは,それなりの品質が保証されるという。インターネットの新用途が期待される050電話サービスの仕組みと,登場の意義を探った。

 インターネット電話と聞くと,「限られたインターネット・ユーザとしか通話できない」「通話品質が安定しない」,「オフィスや家庭でしか使えない」と思う人は多いのではないだろうか。

 2003年にはこれらの制限が取り除かれる。「050」で始まる専用電話番号による新しいインターネット電話サービスが登場するからだ。

「050」で一般の電話と同格に

 050電話サービスは,一般電話と同じ使い勝手が期待できるインターネット電話である。

 今あるインターネット電話の中にも固定電話や携帯電話に発信できるタイプはある。しかし,固定電話や携帯電話からは着信できない。個々のインターネット電話を呼び出すための電話番号が付けられていないからだ。

 今回登場する050番号は,携帯電話やPHSと同じカテゴリの電話番号である。総務省がある一定の基準をクリアした事業者に番号群を割り当て,事業者がユーザごとに個別に割り当てる。050番号が割り当てられたインターネット電話なら,固定電話,携帯電話,PHSから呼び出せる。

 ちなみに総務省は050番号を割り当てるものを「IP電話」,一般のインターネットを使うものを「インターネット電話」と呼んでいる。ここからの表記は,このルールに従うことにする。

NTT番号を使う方法もある

 050番号体系は全部で11桁からなる。先頭部分の050は,その電話番号がIP電話向けに割り当てられたものであることを意味している(図1[拡大表示])。090が携帯電話を,070がPHSを示すのと同じである。050に続く4桁は,総務省が050電話サービスの提供を申請した事業者を審査して割り当てる。050電話サービスの提供は,大手ISPが名乗りを上げている(表1[拡大表示])。そして残りの4桁は,事業者がユーザを識別するために使う。

図1●IP電話と携帯電話の番号体系。
「050」でIP電話であること,以下の4桁で事業者,下位の4桁でユーザを識別する
 
表1●IP電話を提供もしくは試験している事業者の「050」番号への対応状況(2002年11月時点)

 ちなみに固定電話(NTT電話)の番号体系には事業者識別番号がない。市外局番,市内局番,ユーザ番号の構成となる。実はこの番号体系の電話番号をIP電話に割り当てることも認められている。すでにメディアや有線ブロードネットワークスなどがこの番号でIP電話を提供しており,2002年11月からはジュピターテレコムが試験サービスを開始した。こちらの番号体系は事業者識別番号はないので,事業者を変更しても,エリアが同じなら電話番号を継続利用できる。この利便性を「番号ポータビリティ」という。自社で回線交換の電話サービスを提供しているジュピターテレコムによると「番号ポータビリティを適用してNTTから乗り換えてきたユーザは全体の6~7割」(企画部の柴垣圭吾課長代理)という。

 これに対して050番号は,エリアに縛られないという特性がある。原理的には,引っ越ししても,移動しながらでも,同じ050番号で発着信できる。この意味においても,携帯電話やPHSと同じカテゴリに入る。番号体系の世界では,「050」や「090」を「0X0系」と,NTT電話の番号体系を「0ABJ系」と呼んでいる。

 なお,BBテクノロジー(現ソフトバンクBB)のIP電話サービスのように,加入電話などからの着信をNTT電話網に頼るタイプのサービスは,050番号を必要としない。050番号は,加入電話や携帯電話,PHSなどの既存の着信システムにまったく依存しない電話着信のしくみを,IP技術だけで構築する際にのみ必要となる。念のため書き添えるが,BBテクノロジーのIP電話はNTT電話番号で着信するが,もちろんこれはNTT電話として契約しているからであり,BBテクノロジーが「番号ポータビリティ」を使って割り当て直したものではない。

番号からIPアドレスを取得

 050電話サービスを利用したいユーザはISPなどのIP電話事業者に申し込んで電話番号を割り当ててもらうことになる。

 050電話番号の割り当て方は事業者に任される。例えばKDDIは「申し込みのWebページにいくつかの候補を表示する」(KDDI ネットワーク国内営業本部営業企画部 VoIPグループの蒲昌克課長)といった方法で契約ユーザに番号を選ばせる予定である。

 050番号は,IP電話ソフトあるいはIP電話端末に設定して使う。番号の情報が書かれたカードをIP電話の端末に差し込んだり,配布されたソフトウェアでユーザ自身が番号を設定するといった形になる。もちろん,事業者がユーザごとに固定的に050番号を割り当てたり,あらかじめ050番号を割り当てた専用端末を配布するケースもある。

図2●IP電話をNTTの固定電話から呼び出すまでの手順。
IP電話に050番号が割り当てられることで,固定電話や携帯電話からの着信が可能になる

 050番号サービスの仕組みは,基本的に今あるインターネット電話と同じである。違うのは,固定電話や携帯電話からの着信を受け付ける仕組みが追加されたこと。これは,050電話番号とIPアドレスとの変換機能をIP電話網内に設けることで実現される(図2[拡大表示])。このアドレス変換は,IP電話のネットワーク上にある番号管理サーバが担当する。IPアドレスを割り出した後は,端末とVoIPゲートウェイがIPパケットをやり取りする。IP電話のユーザ同士であれば,VoIPゲートウェイは介さずに端末間で直接IPパケットを交換する。

 IP電話への着信に関しては留意点がある。050電話のサービスが始まる2003年初頭の段階では着信を受けることができない。NTT地域会社が交換機のソフトウェアを変更する必要があるからだ。NTT東日本によると「開発やテスト作業の工数を考えると,2003年夏ごろかそれ以降の運用になりそうだ」(広報室)という。

着信時の料金は見えていない

 050電話サービスの通話料金は,今のインターネット電話と同等の水準になる模様。例えば,050電話サービスを発表しているフュージョン・コミュニケーションズは通話料金を全国一律3分8円に設定した。これはBBテクノロジーが提供中の独自IP電話サービスの料金体系「全国一律3分7.5円」とほぼ同じ。月額固定の基本料金にしても,フュージョンは380円,BBテクノロジーは390円と同水準である。

 では050電話への着信時の料金はどうか。こちらについてはまだ詳細が決まっていない。通常,複数の網をまたがる通話については,発信網側に料金設定権がある。このため,050電話に着信する通信の料金は,固定電話発ならNTT地域会社が,携帯電話発なら携帯電話会社が設定することになる。また今のところ携帯電話に着信する場合の料金設定権も携帯電話会社が握っている。このため,050電話発,携帯電話着の料金についても,携帯電話会社が決めることになるかもしれない。

 050電話サービスは,一見,今のインターネット電話サービスがちょっと便利になっただけのように見えるかもしれない。しかし,そこには今後のIP技術の発展に影響を及ぼす重要な変化が含まれている。

 第一は,電話のあり方が根本的に変わる可能性がでてきたこと。第二は,インターネット電話にわかりやすい品質の目安が生まれたことである。

(市嶋 洋平)