PPPoEを利用するメリット

図6●PPPoEとPPPを使い複数のISPを選択する仕組み。
PPPoEサーバと同じ場所に認証(RADIUS)サーバを置いて,ユーザ認証を行う場合もある

 PPPoEはユーザにIPアドレスの設定が不要で,ダイヤルアップの感覚でADSLサービスを利用できるというメリットを与えた。

 一方でADSL事業者に対しても大きなメリットがある。PPPoEを使うことでユーザの利用するサービスやトラフィックの管理が容易にできる。

 もっとも広く利用されているのがADSL回線のホールセール(卸売り)である。NTT地域会社やイー・アクセス,アッカ・ネットワークスなどは自社でISPサービスを手がけていない。ユーザはニフティやぷららネットワークスなどのISPを選択してADSLサービスを利用する。こうしたサービスにPPPoEが使われることがある(図6[拡大表示])。

 利用者が,パソコン画面の認証ダイアログで,ユーザ名に「ユーザID@ISP名」をインプットしインターネットへの接続を開始する。

 クライアントからパケットを受け取ったPPPoEサーバはPPPのパケットを調べ,ユーザ名から加入しているISPを割り出す。そしてユーザの加入しているISPのRADIUS(Remote Authentication Dial In User Service:ラディウスと読む)データベースと照会して認証する。認証が成功した後はPPPoEのサーバとISPの間でコネクションが張られ,IPによる通信が始まる。

 このようなPPPoEの仕組みにより,ユーザがISPを乗り換えたり複数のISPと契約したりすることが簡単にできる。RADIUSデータベースは,ISPがダイヤルアップのサービス用に広く使っているデータベースで,数十万のユーザ情報を扱うことができる。PPPoEをRADIUSと連携させることで,プロバイダが設定したり保守したりする手間が軽減できる。例えば,利用者の接続先を変更する場合。データベースの内容を変更するだけで,各通信機器の設定を変えなくていい。

 ADSLはインターネットへの接続がメインのサービスとなっているが,今後は有料のコンテンツ・サービスなども利用されるようになるだろう。

図7●PPPoEでサービスを利用しているユーザのトラフィックを管理する

 PPPoEはユーザ認証やISPを振り分けるだけの技術ではない。RADIUSサーバでは,ユーザごとのネットワークへの接続時間や選択したコンテンツなどのあらゆるデータを収集できる。また,映画を閲覧する場合は伝送帯域の保証を指定し,そのデータを記録しておくこともできる。後で課金に役立てられる(図7[拡大表示])。

 ここまで見てきたとおり,PPPoE自体は目新しい技術でも複雑な技術でもない。PPPをイーサネット環境で利用できるようにカプセル化した,とてもシンプルなプロトコルである。しかしメリットは大きい。

 ユーザにとってはダイヤルアップと同様の使い勝手でメガ単位のインターネット・アクセスを可能にし,プロバイダには容易な管理,運用環境を実現した。PPPoEがブロードバンド普及を支えてきたともいえよう。


安田 佳世子

レッドバックネットワークス マーケティングマネージャー。米国機器ベンダの日本法人でDECnetやFDDI製品から始まりEthernetを扱ってきた。