富士通は2005年6月22日,ピーク性能で3ペタFLOPS(3000テラFLOPS),実効性能で1ペタFLOPSのスーパーコンピュータを2010年度末をメドに開発すると発表した。現在日本で最速である地球シミュレータの性能の約75倍にあたる。スパコンの性能ランキングは現在,米IBM社のマシンが上位を占めているが,3ペタFLOPSは同時期に1ペタFLOPSを狙う同社のスパコン「BlueGene/Q」を上回る野心的な計画である。

 利用するプロセッサはSPARCをベースに演算処理のための独自機能を追加したものになる見込み。OSはLinuxだ。

ネットワークに計算機能を持たせる

図●次世代スーパーコンピュータに向けた富士通の開発技術
九州大学と共同で開発する。ネットワークにつながれた高性能スイッチで計算ノードの計算負荷を軽減し全体のパフォーマンスを向上する。また,目標とする性能を得るために1万台以上の計算ノードを接続する必要があるが,既存の技術では全ケーブル長が膨大になる。これに対しては一つの光ファイバに波長の異なる複数の光を載せられるWDM(Wavelength Division Multiplexing)技術で対処する。

 富士通は2010年におけるプロセッサの性能を現在の2~3倍と見込んでいる。つまり大幅な性能向上は,プロセッサだけでは達成できない。それを,計算ノードを増やすことと高性能スイッチによる計算ノードの負荷軽減技術で克服する([拡大表示])。計算ノードは1万台程度。現行の約10倍の設置台数である。

 高性能スイッチでは複数の計算ノードを束ねて,総和やAND,ORなどの論理演算,最大値の算出といった処理を引き受ける。「アプリケーションによっては20~30%が総和計算というものもある」(富士通研究所の木村康則ペタスケールコンピューティング推進室長)ことを考えれば,この負荷軽減は大きい。一部はプログラム可能にするが,基本的にはハードワイヤードの回路として実装する予定である。「プログラミングには並列計算のための標準的なライブラリMPI(Message Passing Interface)を利用できるようにする。特に高機能スイッチを意識する必要はない 」(富士通と共同研究を行う九州大学の村上和彰教授)という。

WDMでケーブル本数を抑える

 多数のノードを使うとそれらを結ぶケーブルの総延長が膨大になる。これに対しては,WDM(Wavelength Division Multiplexing)で対処する。WDMは1本の光ファイバの中に波長の違う光を複数載せる技術だ。

 通信に光を利用する場合,光をなるべく電気に変えずに処理する技術が重要になる。光電変換回路は電力消費量が大きい上に,処理に遅延が生じるからだ。とはいえ光は電気のようにバッファにため込んで,処理後に送信するといった手法は使えない。そこで「データのヘッダーだけ光電変換し光の経路を制御する技術を使う」(村上教授)ほか,「光の特性に合った経路制御技術を開発する予定」(木村氏)である。

 「現在のところ,高機能スイッチとレイヤー2スイッチは別々のネットワークで使うことを想定しているが,2010年の段階でこのネットワークを一つにしたい」(木村氏)という。

 多数の計算ノードを用意すると消費電力が問題になる。省電力化に関しては課題としているものの,詳細は公表していない。「消費電力が大きいのはメモリー。ここを減らすのが最大の課題」(木村氏)としている。

(中道 理)