携帯電話に顔認証機能を搭載する初めての製品が登場した。NTTドコモが2005年6月10日に発売したP901iSである。「おサイフケータイ(非接触ICカードFeliCaを搭載し電子マネーで決済できる)を売り出したところ,パスワードだけでは不安というユーザーの声が多かった。ユーザーに安心感を与えるための手法の一つとして採用した」(NTTドコモ)。顔認証は,ICカード機能のロックを解除するときにのみ使える。どの程度使えるのか,通常考えられる認証しにくい状況を想定して試した。

暗めの部屋だと認証されにくい

 一般的な顔認証は,目や口元を中心に照合する。照合に使う特徴点が多く取れるからだ。目や唇の輪郭線上にいくつか点を打ち,これらの方向や角度を数値化する。照合時は,各特徴点の数値を比較して登録データと同一か判定する。P901iSの顔認証では目,鼻,口から特徴点を抽出し,形や位置を見る。髪型や背景の変化は問題ないが,周囲の明るさが大きく影響するという。明るさによっては顔自体を認識できないからだ。

 まずは登録直後にまったく同じ状態で認証できるかを確認したところ,問題なくクリアした。次に場所や明るさを変えた。具体的にはオフィス,自宅,屋外(駅も含む),暗い場所,明るい場所,斜光がある場所だ。オフィスをはじめ照明や外光が十分明るい場所では,難なく認証をクリアした。斜光がある場所でも,極端に強い光ではなかったため認証できた。一方,家や暗い場所では何度か失敗し,数回試行すると認証を通った。

 照合時の顔は,化粧や眼鏡の有無など登録時とは異なる場合があり得る。最初に,特徴点が多いとされている目と口を隠すため,眼鏡やマスクを装着したり髪の毛で片目を覆ってみた。次に,あまり影響はないと考えられるが,帽子の有無や化粧の前後も試した。

 結果は,眼鏡では認証できたが,レンズの色が濃いサングラスやマスクを装着すると認証されなかった。髪の毛で片目を隠したときは認証を通ったため,片目の特徴点があれば十分なようだ。帽子の有無については,照明が明るいオフィスでは認証されたものの,家の照明下で試行すると通らない。帽子のつばで顔の上部が暗くなったためだろう。化粧については,登録時とは別の日に試すと失敗することがあり,結果が安定しなかった。

証明写真は通らなかった

 最後に画面の前に本人がいなくても認証されるかどうかを調べた。免許証と入館証の写真,パソコン用のディスプレイに表示した写真で試した。結果は,ディスプレイに表示した写真のみ認証された。

図●登録と照合の画面
登録する写真は3枚以上。同じ場所(環境)で登録しようとすると,場所を変えるように指示する注意が表示された。別人は登録できなかった。照合に成功するとパスワードを問う画面に切り替わる。不成功のときは数回試行したあとに追加登録をするか問われた。

 このような違いがでたのは,主に写真のサイズにあるようだ。N901iSは撮影時の画面にガイド枠が表示され,この枠内に顔が収まるようにユーザーが調節しなければならない。証明写真のように小さいと,カメラをぐっと近づける必要があり顔がぼやけてしまった。パソコンであれば拡大できるので,適度な大きさで撮影できた。

 これらの結果からは,照明の加減,目や口元の隠れ具合,撮影画像のサイズで認証できるかが左右されると言える。

 NTTドコモによると「双子やよく似た顔の他人,写真でも認証できてしまう」として,顔認証を単体で使うには精度がまだ不十分だと考えている。このため顔認証を使った場合は,必ずパスワードも併用する。また誤認証の措置のためか,数回認証に失敗すると「追加登録」を選択できるようになる([拡大表示])。パスワードを打ち込むよりは格段に利便性が向上することを考えると,今後の精度向上に期待したい。

(堀内 かほり)