写真1●富士通の「PRIME-QUEST 400シリーズ」
写真2●システム・ユニット
最大4個のItanium 2を搭載できる。ユニットを筐体に複数組み込むことでプロセッサの数を増やせる。ユニット間はクロスバー・スイッチで結ぶ。
図●PRIMEQUEST 400シリーズのチップ配置
新しく六つのチップを開発した。これらのうち五つのチップ間はすべての経路を2重化した。また,チップ内部の2重化も行った。チップ間は超高速の同期型のパラレル・インタフェースMTL(Mori/Muta Transceiver Logic)によって結ぶ。なお,ストレージやネットワークなどの周辺機器に関してはソフトウェアで2重化している。
写真3●プロセッサ制御チップ「FLN」の回路
チップ内に二つの同じ回路を搭載することで,耐障害性を向上させている。
 メインフレームの独壇場だった超高信頼性/高性能が求められる業務に耐え得るIAサーバー—。富士通 サーバシステム事業本部長の山中 明経営執行役は,「PRIMEQUEST(プライムクエスト) 400シリーズ」(写真1)の発表会の席上でこう豪語した。仮想敵は日本IBMのメインフレーム機「zSeries」だという。

 PRIMEQUESTはItanium 2を最大32個搭載可能なサーバー機。OSは64ビット対応のWindows Server 2003,Red Hat Linux,SUSE Linux。Itanium 2を最大4個搭載可能なシステム・ユニットをクロスバー・スイッチでつなぐSMP(Symmetric MultiProcessor)構成を採る(写真2[拡大表示],[拡大表示])。ただし,同じシステム・ユニットに搭載されたメモリーへのアクセスに比べ,ユニット外へは1.2倍の時間がかかる。1台のPRIMEQUESTを複数に分けて,それぞれで別々のOS(システム)を動かす「パーティション機能」を備える。パーティションの単位はシステム・ユニットである。

 同クラスのサーバー機と比べたPRIMEQUESTの売りは大きく二つ。第1はメインフレーム並みの信頼性を持ったこと,第2は使い勝手の良さだ。

ハードを徹底的に2重化

 信頼性については「一定期間において99.999%以上正常に稼働するというファイブ・ナインの可用性を保証できる」(山中経営執行役)。この背景にはハードウェア全体の徹底的な2重化がある。具体的にはチップセット,システム構造などを2重化している。データを2系統で流し,どちらかの系統にエラーが生じた場合は,エラーのない系統からの情報を採用する構造にした(この構造を同社は「Dual Sync. System Architecture(DSSA)」と呼ぶ)。

 システム全体で15万カ所の障害検知ポイントを作った。同社のメインフレームにおける障害検知ポイントが10万~12万程度なので,数値上はこれ以上の耐障害性を備えている。障害の際にはナノ秒オーダーでバックアップ経路に切り替わるため,システムは落ちない。

 富士通はシステムの2重化を実現するために,新しく6種類のLSIを開発した(写真3[拡大表示])。そのうち五つは90nmのプロセスルールで製造した,500万ゲートのLSIである。残りはFLP(PCI Expressチップ)で,130nmルールで作る。FLPは同社のUNIXマシンにも使う。

 平均復旧時間MTTR(Mean Time To Repair)は,従来の150分から15分に10分の1に短縮させた。これまではユニットが故障した場合,富士通のサービス担当者が交換部品を持って現地に急行し,交換作業を行う。このMTTRが150分だった。

 PRIMEQUESTでは,待機用のユニットを筐体内に設置しておくことで,ユニットに障害があった際,自動的にこれに切り替える。ユニットの切り替えには時間がかからないが,OSのリブートに15分程度必要になる。

 富士通は今回の製品を信頼性において,“最終完成形”だとは考えていない。「一般にサーバーではストレージ,メモリー,プロセッサ内蔵キャッシュ,周辺チップの順に障害が起こりやすい」(サーバシステム事業本部基幹IAサーバ事業部長の河部本 章氏)。このうち,ストレージはRAIDシステム,メモリーと周辺チップは今回のDSSAによってカバーできる。しかし,3番目は今回のシステムでは対応できない。「プロセッサの2重化ができて初めて最終形だと考えている」(河部本氏)。現在,Intelとプロセッサの2重化に関して協議中だという。

三つの使い勝手を向上させる

 使い勝手の面では,(1)省電力,(2)省スペース,(3)ケーブルレスという三つの点で改善した。

 省電力に関しては,同クラスの他社製サーバーの最大消費電力と比較して約2分の1に抑えた。周辺チップを90nmの半導体で作ったことが大きく寄与した。具体的には,チップ自体の消費電力が小さくなったことと,複数のチップを一つのチップに集積できたことだ。1チップに集積することで,消費電力の大きい外部インタフェース用駆動回路を減らせた。また,高速で動かす部分と,そうでない部分で動作周波数を変えるなどの工夫で,消費電力の低減を図った。

 省スペースに関しては,同クラスのサーバー比べて設置面積が50~60%になった。これに関しては,筐体に組み込むユニットの間隔をせばめることで実現した。冷却用空気の流れを工夫して,Itanium 2のヒートシンクに小型のものを使えたことが寄与している。ヒートシンクの“カサ”が低いのでユニットの間隔を狭くできた。ケーブルレスは,ミッドプレーンというプリント基板を使ってシステム・ユニットやI/Oユニット,I/Oなどをつなぐことで実現した。

 なお,価格は,シングル・プロセッサ構成で2180万円から。出荷開始は2005年6月下旬。目標販売台数は3年間で1万台。すでにトヨタ自動車にはLinuxを搭載した1号機を納入済みである。

(中道 理)

PRIMEQUESTの核心は伝送技術MTLにあり

 本文中で述べたPRIMEQUESTの2重化,SMP構造,ケーブルレスといった特徴には,MTL(Mori/Muta Transceiver Logic)と呼ぶチップ間同期型伝送技術の採用が寄与している。MTLはパラレル伝送方式を採る。現時点での伝送速度は1線当たり800Mビット/秒。将来Intelが予定しているFSBの周波数変更に対応して,1.3Gビット/秒にする予定。信号振幅は1Vである。

 MTLは信号伝送にシングルエンド方式を使う。つまり,1本の信号線だけで信号を送る。多くの高速バスが採用している,信号線を2本使う差動電位方式と比べて信号線の本数をほぼ半分にできる。この半分に減らした部分を2重化用信号線に使った。

 また,MTLの配線は最長60cmまで延長できる。この特性を生かし,ミッドプレーンの信号伝送にMTLを使い,システム全体の同期動作を実現した。

【おわびと訂正】
記事掲載当初,対応OSの一つとして「Windows 2003 Server」と記載しましたが,「Windows Server 2003」が正しい表記でした。おわびして訂正します。