IEEE802.11a/gの規格上の伝送速度は54Mビット/秒である。しかし,瞬間的に54Mビット/秒で流れていても,データが流れていない時間が多くあるため実効速度は20Mビット/秒程度になってしまう。そこで,無線LANチップメーカーはこれまでデータが流れていない時間を短くすることで,高速化を進めてきた。

 こんな状況に一石を投じる製品が登場する。プラネックスコミュニケーションズが2004年9月下旬に発売予定の無線LANアクセスポイント「CQW-AP108AG」(12万8000円)と無線LANカード「CQW-NS108AG」(1万9800円)である。MIMO(Multi Input Multi Output)と呼ぶ多重化技術を使い,既存の無線LANの2倍の速度(11a/gで108Mビット/秒)を実現する。米Airgo Networks社が開発した。

 「MIMOによる高速化はオプション・モードという位置付け」(Airgoの高木映児上席マネージャー)。既存の11a/b/g製品とも接続できる。

伝播のずれを利用して多重伝送

図●MIMOによる多重通信と従来の通信方式の違い

 MIMOは現在IEEE802.11委員会で検討中の無線LANの次世代高速化規格「IEEE802.11n」で採用される可能性が高い無線通信技術である。

 複数のアンテナを対向で使い,それぞれが異なる信号を同時伝送することで高速化する。2本であれば2倍,3本であれば3倍に高速化できる([拡大表示])。

 MIMOが特に優れているのは,周波数帯域を広げることなく高速化できること。どのアンテナも同じ周波数帯で通信する。

 同じ周波数で複数の信号を流すと干渉してうまく通信できなくなりそうだが,受信アンテナごとの受信データの微妙な違いを利用して信号を分離する。例えば,2本のアンテナで異なる信号を送ったとする。受信側の2本のアンテナの位置は空間的にずれているために,受信信号も異なる。このずれを使って計算することで,二つの信号に分離する。

 今回の製品は3本のアンテナを搭載している。「2本のアンテナで通信し,残りの1本を信号処理の補償用に使っている」(高木氏)。

 また,Airgoの製品には通信相手が11a/gの時でも実効速度を高める工夫が施されている。受信側がMIMO対応製品だった場合は,3本のアンテナで受信した信号の差分を基に受信信号を整形する。送信側がMIMO対応だった場合は,それぞれのアンテナから送信するタイミングをわずかにずらすことで,受信アンテナに届く合成波の波形を調整する。

 複数のアンテナから異なる信号を送出する場合,電波法で定める送信電力量を上回ってしまうのではないかという懸念がある。Airgoによると「合計値がアンテナ1本の製品と同じになるように調整している」(高木氏)という。

 また,アンテナ1本当たりの送信電力が小さくなると到達距離が短くなりそうに思える。しかし,「複数のアンテナで受信することで受信感度が上がるので結果的にアンテナ1本で送信する場合と到達距離は同じになる」(高木氏)。

(中道 理)