写真●米バージニア工科大学のDirector of Research/Cluster Computing Associate DirectorであるKevin Shinpaugh氏
図●米バージニア工科大学が開発したクラスタ・システム「System X」の概要
 米バージニア工科大学は,米Apple Computer社のデスクトップ・パソコン「Power Mac G5」を1100台用いて,10.3TFLOPS(1秒間に10.3兆回の浮動小数点演算を実行)の性能を持つクラスタ・システム「System X」を2003年11月に構築した([拡大表示])。クラスタ・システム性能のランキング「TOP500」において,NECによる「地球シミュレータ」の35.9TFLOPS,米Hewlett-Parkered社による「ASCI Q」の13.9TFLOPSに次ぐ3位にランクインした。驚くべきはその価格性能比。他のシステムが数百億円に上る費用をかける中,System Xの構築費用は4億7000万円でしかない。同大学のDirector of Re-search/Cluster Computing Associate DirectorであるKevin Shinpaugh氏に,機材選択のポイントを聞いた。

Q なぜノードにAppleのPower Mac G5を選んだのか。

A CPUの価格性能比だ。目標性能の10TFLOPSを得るのに,Power PC 970が2200個,つまりPower Mac G5換算で1100台が必要だった。Power PC 970は倍精度浮動小数点演算器が二つあり,1クロックで倍精度乗加算命令(FMA)を実行できる。

Q 価格的にはx86系の方が有利そうだが。

A そうでもない。米Intel社のItanium 2もFMAを備えていたが,価格の面で諦めた。米Advanced Micro Devices社のOpteronはFMAがなく,目標の性能を達成するにはノード数が多くなり過ぎるため採用しなかった。

Q System Xを構築する上で最大の障壁は何だったのか。

A システムの冷却と電源だ。一つのラックの中に格納するPower Mac G5は12台。1ラック当たり4kWの電力を消費する。熱対策のためにラックとラックの間に冷却装置を置いている。今はマシンを薄型1UのXserve G5にリプレースしている最中だ。Xserve G5は一つのラックに32台を格納できる。冷却装置付のラックに置き換えることと合わせて,専有面積は従来の3分の1になる。

Q プロジェクトの成功に貢献した独自ソフトウェアは?

A クラスタ管理ソフト「Deja vu」だ。アプリケーションが停止しても処理を再開させるミドルウェアだ。通常はソースコード・レベルで工夫するが,我々のアプリケーションのソースコードは全部で何百万ステップもあるので修正は困難だ。Deja vuを使えばバイナリ・プログラムでも処理が中断しないよう管理できる。

Q 大規模クラスタ・システムの理想像を聞きたい。

A 気象シミュレーションなどの科学技術計算が主な用途であればベクトル型のプロセッサが理想だ。特定の演算に特化したFPGA(Field Programmable Gate Array)のプロセッサにも興味がある。

(聞き手=高橋 秀和)