図●無線区間の音声品質が問われる公衆無線LANサービス
IP電話の経路に無線LANが入る場合,企業や家庭内では無線区間はユーザー側の構内設備内として扱う。番号の割り振りで条件となる音声品質は端末間で試算するが,総務省では割り当て後に構内設備を変更しても再審査はしない。一方,公衆無線LANサービスでは無線区間もサービス提供者の設備範囲に入る。このため,無線区間での音声品質を測定する計算方法と基準を作らねばならない。
 IP電話サービスが浸透し,有線だけでなく無線を使うIP電話サービスの準備が始まっている。ところがネットワーク内に無線LANが存在すると,IP携帯電話に050番号を割り当てられないことが判明した。つまり,一般加入電話や携帯電話から着信できないのである。

 インターネット接続事業者であるライブドアは,2003年12月に「livedoor SIPフォン モバイル」の販売を同月末から始めると告知していたものの,総務省の指導によりストップがかかった。「無線も有線も変わらないと思っていた。有線でもノイズが入りやすいのは同じ」(ライブドア)。このためライブドアのサービスは独自の番号体系を用いることになり,IP電話同士の通話に限定された。

 050番号の割り当てを見合わせているのはNTTブロードバンドプラットフォームも同じだ。公衆無線LANサービス「無線LAN倶楽部」を提供する同社は,IP携帯電話サービスのトライアルを2004年5月半ばより実施している。IP電話間の番号体系は0120から始まる代表番号+内線番号である。一般電話や携帯電話からの着信には代表番号と内線番号を使い,ユーザー間の通話は内線番号を使っている。

割り当てる基準がない

 050番号の割り当てでは,端末-端末間で基準以上の回線品質を保証できることが条件となる。具体的には,音声伝送品質を表すR値が50以上,端末-端末間における遅延が400ミリ秒未満であることが求められる。この条件があるため,総務省はインターネットを経由する場合や,無線LANを利用する公衆サービスに関しては番号割り当てを見合わせている。インターネットを利用する場合は回線品質を保証できないこと,無線LANを利用する場合は品質を算定する基準がないことが理由である。

 IP電話サービスで無線LAN区間をどう扱うかは,TTC(情報通信技術委員会)において検討中だ。「TTCで回線品質の標準を決めるときに無線を対象とするものまでは考慮しておらず,現時点では取り扱っていない。今後TTCでの決定を基に対応する」(総務省)。

IP対応の構内PHSは050で着信可能

 ただしIP電話システムの中でも,オフィス内や家庭で無線LANを利用するIP電話となると話は別だ。無線LANがユーザーの自営設備となるためである([拡大表示])。「申請時は端末-端末間での回線品質を提出してもらうが,申請後に自営設備を変更しても再審査することはない」(総務省)。実際のところ,IP電話を有線で使用すると申請したあとに無線に変更できるということだ。

 一部のベンダーやシステム・インテグレータで050番号が使えるかどうかを懸念する声があるが,オフィスや家庭では無線LANを使っても運用上は問題ないようだ。

(堀内 かほり)