図●ソニーのLIBRIéと松下電器産業のΣBook の表示原理
LIBRIéは米E INK 社が開発したマイクロカプセル型電気泳動方式を採用。背面板と呼ぶTFT基板なども含めると,E INK,凸版印刷,蘭Royal Philips Electronics社と共同で製造している。ΣBookはコレステリック液晶を採用し,特許を管理する米Kent Displays Systems社とコニカミノルタの技術支援を受けて製造する。マイクロカプセル型電気泳動方式は,ゲル状の液体で満たされたマイクロカプセルの中で,マイナスに帯電した黒い粒子(カーボン)とプラスに帯電した白い粒子(酸化チタン)を移動させることにより白と黒を表示する。一方のコレステリック液晶は,らせん状に並んだ液晶分子の向きを変え,光が反射するかどうかで白と青を表示する。
 電子化された書籍を読むための専用端末が相次いで製品化されている。2004年1月29日に松下電器産業が「ΣBook」の出荷を発表し,同年3月24日にはソニーが「LIBRIé」を発表した。国内初の専用端末である。どちらも「紙」の表示に近づく工夫を施した材料を使っている。また,一度表示した画面を電力を使わずに長時間保持することと,バックライトを使わず外光を反射して表示する反射型のパネルであるという点も共通している。だが,表示原理をはじめ形状など両者のアプローチは分かれた。

本に忠実かデジタル性を生かすか

 それぞれの端末で採用する表示材料と表示の原理は次の通り。松下がΣBookで採用したのは,コレステリック液晶である。表示は白と青のモノクロ表示。白の反射率は30%,コントラスト比は4:1と低いが,文字は精細である。

 ソニーがLIBRIéで採用したのは米E INK社が開発したマイクロカプセル型電気泳動方式の電子ペーパーである。視認性が良く,白の反射率は35%,コントラスト比は10:1で新聞紙程度の見やすさだ。軽く薄く,表示が紙のように鮮明であるため電子ペーパーと呼ばれるが,このような要件を満たす液晶パネルも電子ペーパーといわれることがある。

 形状は大きく異なる。ΣBookは本が持つ特徴をなるべく再現するような設計だ。「中央から見開きにするなど本の雰囲気を大切にした。ボタンも極力少なくした」(松下電器産業 電子書籍事業グループサービスクリエイトチームの佐藤真チームリーダー)。本体は520g(電池含まず)。コンテンツ保存用のメモリーは持たず,SDメモリーカードにデータを保存する。

 LIBRIéは「紙で作られた本の延長線上を追うのがいいのかは分からない。検索機能や,本来持っているレイアウトを崩さず漫画のコマを拡大するなど,紙ではできないことをできるようにした」(ソニー e-Bookビジネス推進室の宇喜田義敬統括部長)。電子辞書を標準で搭載し,検索機能と連動させるなど機能は豊富だ。文字入力のためにボタンは多く,ジョグダイヤルも備えている。190g(電池含まず)という軽さは片手で読むことを想定している。

専用端末が吉とでるか

 実は両社の製品とも,当初予定より製品化は遅れた。「本来は2003年4月時点で出荷したかった」(松下電器産業の佐藤氏)という。スペックは1年前と同じであるが,早く製品化してユーザーの反応を知り,市場を作りたいという思いがあった。

 製品化に当たっては,「ユーザーのニーズを満たせるレベルと判断した」(ソニーの宇喜田氏)というように,性能は一定レベルまで達しているという。だが,両社とも「表示の切り替え速度がまだ遅い」という認識は一致している。

 一方,専用端末の投入は市場の状況から時期尚早と見るメーカーもある。「まずはパソコンやPDAなど汎用端末で広く電子書籍を認知してもらいたい」(シャープ)。電子書籍の普及は,著作権者や出版社との連携など複数の要素が大きく影響するが,今回の専用端末の評価も影響しそうだ。

(堀内 かほり)