図●UWBはインパルス方式からOFDM方式に方向性が変化
UWBが登場した当初は,インパルスを用いたシンプルな方式案が主流だったが,無線PAN(Personal Area Network)の標準化を議論してきた過程で搬送波を使うマルチバンドOFDM方式が多数を占めるようになってきた。マルチバンドOFDMを支持するMultiband OFDM AllianceはIEEEでの標準化作業と並行して,同方式の仕様策定を進める意向である。
 UWBの実現に向け,OFDM技術を推すメーカーが動き出した。「マルチバンドOFDM」と呼ばれる方式を推す企業グループが,UWBの通信仕様を検討するSIG(Special Interest Group)を結成し,独自にOFDMベースの仕様を策定,製品化を進めていくという。

 この企業グループは,米Texas Instruments社,米Intel社が中心となって,2003年6月に結成した「MultiBand OFDM Alliance」(以下,MBOA)である。MBOAは,マルチバンドOFDMを用いるUWBの普及を目的とする業界団体で,2004年2月時点で50社を超える企業が参加している。

 UWBの標準仕様は,無線PAN(Personal Area Network)の規格化を進めるIEEE802.15委員会が検討中だが,議論が難航している。これに業を煮やしたMBOAが独自にSIGを立ち上げ,実用化に向けた仕様策定に踏み切った格好だ。SIGによる仕様策定を先行させ,それをIEEE標準に追認させたBluetoothと同様の手法で実用化を急ぐ。

2005年前半の製品出荷を目指す

 これまでのUWBをめぐる動きは少し複雑だ。UWBが通信技術として表舞台に登場したのが2002年2月([拡大表示])。米国の連邦通信委員会(FCC)がノイズ以下の出力に限定するという条件で,UWBの民間利用を暫定的に認めた。当時は,UWBと言えば瞬間的な信号の有無でデータを表現するインパルス通信を意味していた。IEEEでの標準化作業は2003年1月に始まった。

 当初は,2GHz程度の帯域幅を使うインパルス通信の提案が多かった。しかし,2003年7月時点では,500MHz強の帯域でOFDMを用いるマルチバンドOFDMが多数派になっていた。

 次の段階に進むには,参加者の投票により75%以上の賛成を集め,基本案に採択されなければならない。マルチバンドOFDM方式は最有力と言われながら,現在まで必要な賛成票を集められていない。対抗案である,インパルス通信を基とするDS-CDMA(直接拡散CDMA)方式への支持が根強いためである。

 ここに来てMBOAが独自にSIGを結成するのは,標準化の足踏みにより製品投入の遅れが市場形成に影響する恐れがあると判断したから。IEEEに先行する形でMBOAとして仕様を固め,IEEEに提案していくという。MBOAの参加企業も着実に増えており,「賛成票を企業ベースで計算すると75%を超えている」(日本テキサス・インスツルメンツ DCESカンパニー ストラテジック マーケティング統括本部 副本部長の福井 健人氏)と,IEEEでの採択は時間の問題と見ている。

 MBOAでは,2004年5月にマルチバンドOFDMによるUWBの通信仕様をスペック1.0として公開する予定。2005年第1四半期には通信モジュールの出荷が始まり,第2四半期にはUWB搭載製品が市場に登場するという。

(仙石 誠)