写真1●ノートパソコンの背面に取り付ける東芝の燃料電池
ノートパソコン背面に取り付けた燃料電池ユニット。手前は取り外したカートリッジ。燃料電池ユニットの側面に,カートリッジをはめ込む。Librettoに装着しているため,やや大きく見える。
写真2●NECが試作した燃料電池を取り付けたノートパソコン
NECの試作機は,ノートパソコンと燃料電池が一体になっている。ノートパソコン背面のふくらんだようになっている部分に燃料電池が入っている。
 パソコンの電源として燃料電池が徐々に現実味を帯びてきた。東芝,NEC,日立製作所は,2003年秋に開催された展示会で,相次いでパソコンに直結させた燃料電池を参考出展した。

 東芝の燃料電池は,ノートパソコンの背面に取り付ける(写真1[拡大表示])。右側面がカートリッジ式の燃料タンクになっており,新しいカートリッジに差し替えることで燃料を補充する。カートリッジには高濃度のメタノール(濃度は非公開)50mlが入っており,カートリッジ1個でノートパソコンを約5時間,駆動できる。容量100mlで10時間駆動できるカートリッジも用意した。

 燃料の補充には燃料電池内の貯蔵タンクにメタノールを注入する方式も考えられるが,「希釈しているとはいえ,毒性を持つメタノールにユーザーが直接触れてしまう危険性を考えると,注入式は考えられない」(東芝 研究開発センター 給電材料・デバイスラボラトリーの原田康宏氏)と,基本的にはカートリッジ式を採用する方針である。

 NECは,パソコンと一体に見えるように筐体をデザインした燃料電池を参考出展した(写真2[拡大表示])。10%に希釈したメタノール300mlを貯蔵しており,パソコンを約5時間,連続で駆動させられる。平均出力は14Wである。燃料補充は注入式で,簡単に注入できるような燃料パックを用意した。カートリッジ式の試作機も展示しており,「どちらを採用するかはまだ決まっていない」(基礎研究所 CNT応用研究センター 主任の木村英和氏)。

 日立製作所もノートパソコン,タブレットPCなどに直結させた燃料電池の試作機を公開。燃料電池ユニットはノートパソコンの底面に置く形で直結されており,20%のメタノールで約8~10時間程度の連続駆動を狙っている。

描けない燃料電池の利用シナリオ

 東芝とNECは2004年,日立製作所は2005年の製品化を目指している。製品出荷時期から逆算すると,そろそろ具体的な“燃料電池パソコンの姿”を決めるべき時期のはずだ。しかし,現状では各メーカーとも「具体的にどう製品化するかは未定」(NECの木村氏)と口を揃える。ここがクリアされないと燃料の供給方法や販売方法が決められない。

 燃料電池の実装方法を決められない大きな要因の一つが制度の問題だ。メタノールは,劇物,危険物に指定されており,現状では法規制が実用化の足かせになる可能性がある。

 このため,日本電機工業会,電子情報技術産業協会(JEITA),電池工業会が中心となり,法規,環境安全基準,性能試験などについて,業界の統一基準を定める「携帯機器向け小型燃料発電に関する調査研究会」を立ち上げ,2003年9月に第1回目の会合を開き,検討を開始した。この調査研究会を通じて制度面の調整を関係省庁に働きかけていく。

 技術的には「燃料電池を実装したノートパソコンは実現できる」(東芝の原田氏)ところまで来ている。制度面での整備も始まった。その意味では,現時点の最大の課題は燃料電池ノートパソコンの用途や使う場面などを具体的に想定することのようだ。現在のリチウムイオン二次電池と同じ,あるいは少し上回る程度の駆動時間では,一定時間発電し続けてしまう燃料電池を使うメリットはない。こうした点を考えると,燃料電池の必然性を持たせた“適切なシナリオ”を描くことが急務といえるだろう。

(仙石 誠)