表●年末商戦向けのA4サイズ対応インクジェット・プリンタ
単機能機を中心にまとめた。
図1●セイコーエプソンの新型顔料インク
顔料インクは平滑性が課題である。従来のインクと比較して,平滑性が向上する工夫を施した。
図2●PX-V700とPX-G900の印刷結果
PX-V700で印刷したもの(左)が全体的にくすんだ感じになっているのに対して,PX-G900で印刷したもの(右)は鮮やかに見える。誌面では分かりにくいが,PX-G900は印刷結果に光沢感があるが,PX-V700では光沢感が無い。
図3●各メーカーの最上位機種で最高画質で印刷した時間
日本規格協会SCIDサンプル「自転車」の等倍印刷(A4)にかかった時間を比較した。使用したパソコンは東芝の「DynaBook SS M4/260CRE」(モバイルCeleron 600MHz,主記憶128Mバイト)。USB 1.1で接続した。
年末商戦を前に,今年もまたインクジェット・プリンタの新製品が各社から一斉に発表された([拡大表示])。今年の特徴は,各社ともこれまで得意としてきた機能をさらに強化し,他社との差異化を目指したことである。画質やフチ無しなど誰もがプリンタに望む機能では差をつけにくくなってきたからだ。

顔料インクで写真印刷を可能に

 セイコーエプソンの目玉は,顔料インクで光沢感のある写真のような印刷を可能した点である。「PX-G900」で実現した。今回,顔料インクプリンタとして「PX-V600」も投入したが,こちらは光沢印刷に対応していない。

 同社は2003年2月から,普通紙ににじみ無く印刷できることと耐水性をセールス・ポイントにした「PX-V700」を販売している。しかし,PX-V700ではいわゆる「写真画質」が印刷できない。特に光沢感のある印刷ができなかった。これは顔料インクの性質からすれば,ある面しかたがない。光沢感は印刷した面が平滑でないと出てこないからだ。

 インクジェット・プリンタで一般的な染料インクの場合,紙自体が平滑であれば光沢感が出る。染料インクは紙に吹き付けられると,色材も含めて紙に吸収される。表面に紙以外のものが残らないので,平滑性が保たれる。

 一方,顔料インクは,紙の表面に色材がくっついて発色する。このため,表面に乗った色材が積み重なるため,その乗り方によって凹凸ができ乱反射する(図1左[拡大表示])。この乱反射が光沢感を失わせる。

 そこでセイコーエプソンは,(1)色材を包むコーティング樹脂を変更し,(2)透明インクを追加した(図1右[拡大表示])。(1)はコーティング樹脂を変えてインク粒を紙面で均質に並ぶようにした。紙面に付着したときにそこで動きやすくして,すき間をうまく埋めるようなイメージだ。具体的にはコーティング樹脂の密度を上げることでこれを実現したという。(2)はインクが乗ってなかったり,少なくて凹になっている部分を平らにするためのもの。この二つの改良で表面を均一にして光沢感を出す。

 PX-V700で光沢紙に印刷したものと,PX-G900で光沢紙に印刷したものを実際に比較すると,PX-V700では全体にくすんだ感じになるが,PX-G900では光沢がある印刷になった(図2[拡大表示])。他の染料インクの印刷とも比較もしてみたが,違いはほとんどなかった。

高速/高解像度を強化するキヤノン

 一方の雄であるキヤノンは,プリンタの基本性能,つまり解像度と印刷速度にこだわった。ただし,このこだわりが出るのは最上位機種だけである。

 解像度は,最上位モデルの「PIXUS 990i」で4800×2400dpi。昨年の最上位モデル「PIXUS 950i」の4800×1200dpiの2倍だ。印刷速度は従来比で約2割増になったという。1色当たり516個だったノズルを768個に増やすことで高速化した。他社のノズル数はこれほど多くはない。例えば,セイコーエプソンのPX-G900の場合,ノズル数は1色当たり180個だ。

 キヤノンはノズル数を多くできる理由を「半導体製造技術を使って精度良く細かい穴を開けているため」と説明する。「他社はドリルやレーザー加工,プレス加工でノズルを作っている。高密度なノズルは作りにくい」のだという。

 実験してみたところ,950iで1分35秒を要した印刷が990iでは1分15秒で終了した。この速度は,他メーカーと比べて圧倒的だ(図3[拡大表示])。他社は990iより解像度が粗いにもかかわらず遅い。セイコーエプソンのPX-G900は1分50秒,日本ヒューレット・パッカードの「Deskjet 5850」が4分43秒かかった。

 このほか,デジタルカメラとプリンタを直接接続して,パソコン無しに印刷可能な業界仕様「PictBridge」に単機能プリンタ全機種で対応した。

無線LANを装備した日本HP

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は,単機能のプリンタではなく,コピー機能,スキャナ機能などを統合した複合機のラインナップ拡充に力を入れた。すべての価格帯(2万円前後~5万円前後)に複合機を用意し,同じ価格帯にある単機能の他社製品に対し付加価値で勝負する。

 単機能機に目を向けると,普及価格帯の製品「Deskjet 5850」(価格はオープンだが日本HPのオンライン・ショッピング・サイト「HP Directplus」では2万9800円)にプリント・サーバーを内蔵し,無線LAN(IEEE802.11b)と有線LAN(10BASE-T/100BASE-TX)を装備した。家庭内ネットワークの普及に対応して装備したという。

 実はキヤノンも今回,無線LANとプリント・サーバー機能を備えた「PIXUS 865R」を投入している。こちらの価格は5万9800円と高く,販売上も「同 860i」のオプション的な扱いになっている。市場の反応を見るための実験的な製品という色合いが強い。

(中道 理)