IP電話サービスが始まり相互接続性が話題になっているなか,「IP電話に関する特許」によって今後のサービス展開に制限が出てくるのではないかという懸念が生じている。発端はソフトバンクが「IP電話の特許を出願中」と発言したことだ。

 2003年9月現在で公開されているソフトバンクの特許出願を見てみると,IP電話関連のものが4件ある。このうち特許として成立させるための審査を請求している出願が1件ある。

 この出願は,電話機とIP電話網をつなぐアダプタのダイヤルアップ技術に関するものである。具体的には,(1)電話機から相手先電話番号を受け取ったアダプタがネットワーク上のデータベースに電話番号を照会し,IP網経由で通話するか一般電話網経由にするかを自動的に判断する,(2)ユーザーが相手先電話番号に先だって記号/特定番号を入力すると,アダプタが記号/特定番号に基づいてIP網経由にするか一般電話網経由にするかを決める,というものである。

 言い換えると,相手がIP電話ユーザーなのか,それとも一般電話ユーザーなのかを気にすることなく発信できるようにするとともに,ユーザーが意図的にIP網または一般電話網を選択して発信することもできる技術である。出願では,このダイヤルアップ技術を電話機に埋め込むケースや,IP網以外の中継網を選択するケースにも触れている。

 仮にこの出願が特許として成立すると,上記のようなダイヤルアップ技術を使えるIP電話サービスが,成立した特許に抵触する可能性が出てくる。なお,このダイヤルアップ技術は,ソフトバンクBBのIP電話サービス「BBフォン」向けのADSLモデムが備えるIP電話技術とほぼ同じだ。

意外と冷静な他IP電話事業者

 一般電話機をIP電話サービスの端末として使えるようなサービス形態を考えると,この出願内容に抵触しない形でのサービスは使い勝手の悪いものになりかねない。しかしながら,他のIP電話事業者は,特許として成立する可能性が低いと見ているのか,少なくとも表面上はあまり気にかけていないようだ。

図●特許が成立するまでの流れ
出願しても3年以内に審査請求しなければ,出願は取り下げと見なされる。特許として成立したあとの流れは,特許権者がその特許をライセンスするかどうかで大きく変わってくる。

 出願が特許として成立するには,高度な技術であること,容易に発明できず同様の出願がないこと,などの条件を満たさなくてはならない([拡大表示])。あるIP電話事業者は「新規性があるとは思えない」という。だが,審査を通過した場合に備え,「出願内容が公知の事実であったことを証明するものを探している」。

 もっとも,IP電話関連の特許を出願しているのはソフトバンクだけでない。例えば韓国の三星電子は,先に示した(1)とほぼ同じ内容の特許をソフトバンクより前に韓国で出願している(特許出願平10-290964/特許公開平11-252180)。今後,複数の企業がIP電話サービス関連の特許を主張する事態になれば,IP電話サービスの普及に向けて新たな調整が必要になるだろう。特許権者間でクロスライセンス契約を結んだり,特許プールを作るなどの作業が始まるかもしれない。

(堀内 かほり)