サン・マイクロシステムズは2003年5月23日,オフィス・スイートの新版「StarSuite6.1」のベータ版を公開した。StarSuiteは,Linuxでも使える実用的なオフィス製品として注目を集めている。Microsoft Officeとの互換性が高く,オフィス文書をメールでやり取りするような用途でも十分に使える。実売価格が1万円強と安価であり,さらにWindowsとSolarisでも動作するのが魅力である。その次期版の目玉は,Microsoft Officeとの互換性の向上と,PDF(Portable Document Format)ファイルへのエクスポート機能だ。

 PDFに対応することにより,米Adobe Systems社の「Acrobat」を購入しなくても,文書をPDFファイルに変換できる。Webサイトで文書を公開するのに便利な機能だ。PDFへのエクスポート機能は,StarSuiteのどのソフトでも使える。ワープロと表計算ソフト,プレゼンテーション・ソフト,図形描画ソフトの四つである。さらにプレゼンテーション・ソフトと図形描画ソフトでは米Macromedia社の「Flash」形式にもエクスポートできるようにした。動きのあるプレゼンテーションなどをFlashファイルとして出力できる。

 このほか二つの機能を付加する。一つは,キーボード入力やメニュー操作などの履歴をマクロとして登録する機能。従来マクロを記述するには,専用のスクリプト言語を利用するしかなかった。次が,XSLT(Extensible Stylesheet Language Transformations)を使った文書形式の変換機能である。StarSuiteの文書は,すべてXML形式で保存される。このXML形式を変換するXSLTファイルを登録すれば,文書を好みのXML形式に変換して保存したり,逆に読み込んだりできるようにした。ただしXMLファイルの読み書きにはXSLTファイルが必須である。この点ではMicrosoft Officeの次期版「Office System」が先を行く。

Officeの箇条書きなどを反映
図1●Microsoft Officeとの互換性がまた一歩向上 Officeで作成した文書をStarSuiteで閲覧したときに,箇条書きやルビ文字,吹き出しなどがうまく表示されるようになった。ルビ文字は,従来のStarSuite6.0では文字の位置が真中によってしまっていたが6.1では改善されている。吹き出しは“しっぽ”の部分がPowerPointで指定した通り表示されるようになった。ただし,対応したのは矩形のタイプだけで,他の形はダメだった。

 ベータ版を使ってみると,Microsoft Officeとの互換性は確かに向上していた。改善していたのは細かい点ばかりだが,それでもメリットは大きい。Office文書をメールで受け取ったり,インターネットからダウンロードしたりするのに,互換性は重要だからだ。

 まず,文頭に「1.」「2.」というような数字を付けた箇条書きをWordで記載してみた(図1[拡大表示])。そのファイルを旧版のStarSuite6.0で開くと,数字が「●」による箇条書きになっていた。それが6.1では正しく表示されるようになった。

 PowerPointなどでよく使う「吹き出し」がうまく表示できるようになった。旧6.0では,吹き出しの“しっぽ”の部分がいつも左下に表示されていた(図1)。PowerPointでしっぽの位置を変えていても無視されてしまう。それが6.1では矩形のタイプだけだが,正しく表示されるようになった。ただしStarSuiteには元々吹き出しを作る機能がない。インポートした吹き出し全体を図形として取り込んでいるだけである。

 一方で互換性が低くなっている部分もあった。旧6.0では正しく表示されていた段組構成の文書である。6.1では段組の指定が無視されてしまった。さらにWordでA4サイズで作成した文書を6.1で開くと,Letterサイズに変更されてしまう。これも6.0ではなかった現象である。サン・マイクロシステムズは「開発元に通知して修正したい」(Sun ONE事業本部ソフトウェアビジネス推進部StarSuiteビジネス担当の三原茂氏)としている。

 Excelで日付を日本語で表記した場合はあい変らずダメだった。StarSuiteで開くと日付を数値データとして認識してしまい,無意味な数字になる。

PDFエクスポートは便利

 PDFファイルのエクスポート機能はかなり便利だ。表や写真を挿入していても,きれいにPDFファイルとして出力される。

図2●文書をPDFファイルとして出力Webサイトで文書を公開するときなどに便利。ただし,ベータ2のWindows版にはバグがある。PDFファイルにおいて,カッコや長音(ーなど)に縦書き用のフォントが使われる(中央)。正式版では修正される予定。Linux版では問題はない(右)。

 ただし,ベータ版では日本語処理にバグがあった。括弧や句読点,長音(ー,~など)の表示にPDFファイルでは縦書きフォントが設定されてしまう(図2[拡大表示])。もっとも,このバグがあるのはWindows版だけでLinux版では問題なかった。このバグはサンでも「すぐに気付いた。社内で開発中のバージョンではバグを修正済み」(三原氏)という。

 Flashへのエクスポート機能も試してみた。ファイルをブラウザで開くと,プレゼンテーション画面の1ページ目が表示される。クリックするとページが次々に切り替わる仕組みだった。ただし今回のベータ版では,プレゼンテーションに付けた動きはFlashファイルに反映されなかった。

(安東 一真)