2003年4月に入ってIEEE802.11g(以下11g)製品ベンダーに新顔が加わった。コレガである。

 コレガの製品が他社製品と違うのは,米Intersil社のチップを使用する点である。アップルコンピュータやメルコ,リンクシスが2003年2月頃に一斉に出荷を開始した無線LAN装置はすべて米Broadcom社製のチップを採用している。

 現在,11gは2003年6月の規格化に向けて最終調整の真っ最中。規格自体が固まっておらず,相互接続性認証機関Wi-Fiでの相互接続性認証テストはまだ始まっていない。異なるチップを採用した機種間での相互接続性は気になるところだ。

 2003年3月中旬にBroadcomチップ内蔵製品でも変化があった。アクセスポイントのファームウェア,無線LANカードのドライバに大幅なバージョン・アップがあったのだ。具体的には,11gのDraft5.0仕様から2月下旬に承認されたDraft 6.1仕様に即したファームウェア/ドライバになったのである(コレガの製品は出荷開始時にDraft 6.1に対応)。これにより,11gとIEEE802.11b(以下11b)の製品を共存させたときに起こっていた速度低下を改善したとしている。

 今回,これら気になる点と無線LANの暗号化機能WEP(Wired Equivalent Protocol)を使った状態での実効速度を調べてみた。

Broadcomに一日の長

写真●今回の実験に使用した製品
右がコレガの「WLAP-54GT」と左がメルコの「WBR-G54」である。

 実験に使用したのは,コレガの「WLAP-54GT」(無線LANカードとセットで2万1300円)とメルコの「WBR-G54」(無線LANカードとセットで2万3500円)である(写真[拡大表示])。前者はブリッジとして働き,後者はルーター機能を内蔵する。今回,無線部分だけを評価するのでこの違いは影響がないと考えた。

 最初に測定したのは,セット製品での最大実効速度である。つまり,同じベンダーのアクセスポイントと無線LANカードの組み合わせで通信した場合の速度を測った。

 アクセスポイントの隣(約20cm離した場所)に無線LAN端末を置き,アクセスポイントのLANポートにつなげたパソコンから無線LAN端末にデータを転送した場合の速度を計測した。測定には米Printing Communications Association社の速度測定ツール「PCATTCP」を使用し,TCPを使ったパケット伝送時の実効速度を測定した。以下に出てくる実験結果はすべて同じ環境,同じツールで測定している。

図1●右がコレガの「WLAP-54GT」と左がメルコの「WBR-G54」である。
コレガ製がメルコ製よりも遅いが,初期のメルコ製とほぼ同じであり,改善の可能性はありそうだ。

 この結果は図1[拡大表示]のようになった。すべてのケースでコレガの製品の実効速度がメルコ(Draft 6.1対応の最新版のファームウェア)よりも低い値が出ている。ただし,メルコの出荷開始時点(Draft 5.0対応,2003年2月)と比較するとほぼ同等である。今後のファームウェア/ドライバの修正で高速化の余地はありそうだ。

11b接続時に効果的なDraft6.1

 図1でメルコの11b/gモードに注目すると,以前のバージョンのファームウェア(Draft 5.0)と比べて,最新バージョンのファームウェア(Draft 6.1)で大幅な改善が見られる。特に11bを接続した場合での速度向上が大きい。

 ここで整理のために,11gのアクセスポイントが持つ通信モードを整理しておく。11gの通信は大きく分けて,11gモードと11b/gモードがある(図2[拡大表示])。アクセスポイントが11gモードで動作している場合は11g端末としか通信をしない。11bから接続要求があっても応答しない。11g端末だけと通信をすることで,全体のスループットを向上させるために作られたモードである。11bは通信速度が遅いので,相対的に11bの占有時間が長くなり,全体のスループットが落ちる。

図2●11gのアクセスポイントが備える通信モード

 一方,アクセスポイントが11b/gモードで動作している場合は,11g端末と11b端末両方と通信できる。ただし,同じアクセスポイントと通信している端末がすべて11g端末の場合と,11b端末が1台でも通信している場合とで,そのモードは異なる。

 11g端末のみで構成される場合は,11gモードと同じパラメータで通信する。このため,理論的な最大速度は11gモードと同じである。

 ところが,11b端末が入るとパラメータが変わる。具体的には,データフレームが一つ流れてから,次のフレームが流れるまでの待ち時間が長くなる。この結果,理論的には,11gおよび11b/g(b接続なし)モードが31Mビット/秒であるのに対し,11b/g(b接続あり)モードが20Mビット/秒になる(Draft 6.1の場合)。

(中道 理)