デジタルカメラで撮影した写真を,パソコンを使わずに直接印刷しようとする二つの仕様が動き始めた。カメラ映像機器工業会(CIPA)が2003年2月に発表した「PictBridge」と,セイコーエプソンが2003年4月に発表した「PhotoPC DIRECT」である。

 PictBridgeの元となっているのは,2002年12月にプリンタやデジタルカメラのメーカー6社が共同で発表した「DPS」という規格である。これをCIPAが審議・承認し,PictBridgeとして公開した。

 ただし従来のプリンタはこの規格の恩恵を受けることはできない。これを解決するためにセイコーエプソンが打ち出したのがPhotoPC DIRECTだ。同社はPictBridgeへの対応も予定しているが,既存のプリンタでも直接接続を可能にするために新たな仕組みを開発した。2003年4月18日発売のデジタルカメラに初めて組み込んだ。

印刷データを生成する場所が違う

図●PictBridgeとPhotoPC DIRECTの違い
印刷用のデータを生成するのが,プリンタかデジタルカメラかに違いがある。得られるメリットも異なる。PictBridgeは異なるメーカー間の機器接続を可能にする。PhotoPC DIRECTは,パソコン接続を前提としたプリンタにもデジタルカメラを接続できるのが利点だ。

 PictBridgeとPhotoPC DIRECTは,どちらも物理的な接続にUSBを使う。両者の違いは,印刷用のイメージデータをどこで生成するかである([拡大表示])。

 PictBridgeでは,印刷データを生成するのはプリンタである。デジタルカメラは,画像データと印刷条件をプリンタに送る。プリンタはそれを受け取って印刷用の画像を生成し,印刷する。

 この規格が普及すれば,メーカーの違いを意識せずプリンタとデジタルカメラを相互接続できるようになる。ただし,従来のプリンタは必然的に対象外になってしまう。またプリンタは画像処理エンジンを搭載する必要があるため,通常の機種よりも若干コストが高くなるという側面もある。

 一方のPhotoPC DIRECTでは,デジタルカメラが印刷データを生成する。通常パソコンに組み込まれるプリンタ・ドライバを,デジタルカメラ側で持つ。これで画像を印刷用に変換し,プリンタに送る。プリンタから見ればパソコンに印刷を指示されたのと同じ状態なので,特別な対応はいらない。

 PhotoPC DIRECTのメリットは,パソコンとの接続を前提とした従来のプリンタでも直接印刷ができること。セイコーエプソンが発表したPhotoPC DIRECT対応のデジタルカメラは,同社のインクジェット・プリンタのほとんどの機種のドライバを備えている。新しいプリンタが発売された場合は,それに対応したドライバをダウンロードしてデジタルカメラに組み込むこともできる。ただし,同社の機器間でしか接続できないという制限がある。

PictBridge製品は続々登場予定

 両者に対応した製品は,今後続々と登場しそうだ。まずPictBridgeには,今年の下半期以降に発売されるデジタルカメラのほとんどが対応すると見込まれる。「PictBridgeという標準規格は,デジタルカメラのメーカーにとっては歓迎すべきもの。秋以降に発売する新製品には搭載することになるだろう」(三洋電機記録メディア事業部商品企画部DI商品企画1課の大枝英司担当課長)。そのほかの主要なデジタルカメラ・メーカーも軒並み新製品での対応を明らかにしている。キヤノンは,現在発売済みの製品に関してもファームウェアの更新で対応する予定だ。

 一方プリンタのPictBridge対応は,前述したコストの問題などから「パソコンが不要」という特徴を打ち出す一部の機種に限られそうだ。

 セイコーエプソンは,デジタルカメラではPictBridgeとPhotoPC DIRECTの両方に対応していく。プリンタでは,直接印刷を目的とした機種をPictBridge対応にする予定だ。

(八木 玲子)