米Intel社初のノートパソコン専用CPU「Pentium M」(開発コード名Banias)がついにベールを脱いだ。低消費電力と高性能を両立することを目指して開発された製品だ。インテルは2003年3月12日,Pentium Mを含むノートパソコン向け技術「Centrino」の発表会を開催し,Pentium Mの低消費電力をアピールした(写真1)。

 インテルの発表と同時に,Centrinoに対応したパソコンが一斉に登場した。比較的大型の製品が多いが,東芝の「dynabook SS S7」のように携帯に適したものもある(写真2)。重量は1.09kg,最薄部の厚みがわずか14.9mmという製品だ。

写真1●Pentium Mの発熱が少ないことを示すデモンストレーション
赤外線カメラで撮影した映像でデモした。青い部分は温度が低い。ノートパソコンで何か作業をしても,CPUの部分の温度が一瞬上がるだけだった。
 
写真2●Centrinoに対応した東芝の薄型軽量ノートパソコン「dynabook SS S7」

Centrinoブランドが生む混乱

 ただし,「Centrino」というブランド名はユーザーを混乱させる元にもなっている。

 Centrinoは,Pentium Mと同CPU向けチップセット「855」,無線LAN機能を持つMiniPCIカード「PRO/Wireless 2100」の三つを総称するブランド。三つがそろわなければCentrinoブランドは名乗れない。逆に言えばPentium Mを搭載しているにもかかわらず,Centrinoブランドの製品とそうでない製品ができてしまったのだ。

写真3●Pentium MベースのカスタムCPUを搭載するソニーの新型「バイオU」

 混乱の主たる原因はCentrinoの無線LAN機能にある。Intelは当初,現在主流であるIEEE802.11bと最大54Mビット/秒の高速規格であるIEEE802.11aの両方に対応するとしていた。ところが,802.11aへの対応はCentrinoの登場時には間に合わなかった。2003年半ば頃になるという。

 この結果,パソコン・メーカーが独自に802.11a/b対応機能を搭載した製品にはCentrinoブランドが付かないことになってしまった。一番ややこしいのはデルコンピュータの「Latitude D600」だ。無線LAN機能として,802.11b対応のIntelのPRO/Wireless 2100以外に802.11b/g対応の「TrueMobile 1130」を搭載できる。つまり,802.11bのみの対応ならCentrinoロゴが付くが,802.11b/g対応ならCentrinoではなくなってしまう。

 ソニーの新型「バイオU」もややこしい(写真3)。この製品が搭載するCPUは「超低電圧版モバイルCeleron 600A MHz」という。Pentium Mをベースに,動作周波数/消費電力の可変機構「拡張版SpeedStep」を削り,動作周波数を600MHzに固定したCPUである。バイオUは筐体が極端に小さく熱設計が厳しいため,少しでも消費電力を減らそうとしたためだ。その結果,Centrino対応でないばかりでなく,Pentium Mですらなくなった。

速度は2GHz超のP4に匹敵

 Intelのブランド戦略はともかく,ユーザーとしてはPentium Mの高速・省電力という特徴を生かしたノートパソコンの実力が気になるところだ。第1陣としてパソコン・メーカー6社が3月下旬から順次出荷を始める([拡大表示])。この中で今回試用できたのは,2003年3月20日出荷のNECの「LaVie M LM500/5D」と,同年4月下旬に出荷を予定するソニーの「バイオU PCG-U101」の2モデル。LM500/5Dは1.3GHz動作のPentium M,PCG-U101はPentium Mコアの超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzを搭載している。両機のベンチマークの結果を基にPentium M搭載機の実力を見ていこう。

 まず,Pentium M 1.3GHzの処理性能を英SiSoftware社のベンチマーク・ソフト「Sandra 2003」で整数演算(Dhrystone),浮動小数点演算およびストリーミングSIMD 拡張命令2の処理性能(Whetstone)を計測した(図1[拡大表示])。動作周波数で約1.7倍のモバイルPentium 4-M 2.2GHzに対して,整数演算で約76%,SSE2の演算では同2.2GHzの89%のスコアを出した。さらに浮動小数点演算性能では,900MHzの動作周波数の差をものともせず,モバイルPentium 4-M 2.2GHzの約1.4倍のスコアを叩き出した。

表●Pentium M(派生CPUを含む)を搭載した主なノートパソコン
 
図1●Pentium Mの演算性能の傾向
英SiSoftware社のベンチマーク・ソフト「Sandra 2003」を使い整数演算(Dhrystone),浮動小数点演算およびストリーミングSIMD 拡張命令2の処理性能(Whetstone)を計測した。結果はPentium Mコアの超低電圧版モバイルCeleron(600A MHz)の値を1とした相対性能。モバイルPentium 4-M(2.2GHz),モバイルPentium III-M(1.2GHz),Pentium IIIコアのモバイルCeleron(600MHz)の結果も比較のため併記した。

(大森 敏行,高橋 秀和)