RFタグでリサイクルの効率が上がる
次の課題は統一ルールの作成と運用

日経バイト 2003年3月号,16ページより

 冷蔵庫に読み取り機を近づけると,メーカーやフロンの種別が一瞬で大型モニターに表示される。作業員はそれを見ながら,スムーズに解体作業を進める――。

 2003年1月30日,宮城県にあるリサイクル施設で,RFタグを使って家電のリサイクルの効率化を図るための実証実験が実施された。この実験の結果,家電製品にRFタグを貼付することでリサイクルにかかる時間を削減できることが証明された。さらに,リサイクルに回せる部品の数が前より増えた。RFタグの新たな用途の可能性が見えてきた。

無線で情報をやり取りするタグ

 RFタグとは,プラスチックなどで作られた小さな入れ物の内部に,無線通信機能を備えた半導体チップを埋め込んだものである。ICタグ,IDタグなどと呼ばれることもある。物流倉庫などで,一つひとつの品物を識別して在庫管理する場合などに使われている。

 RFタグの半導体チップには,識別情報が格納されている。これを電波を使ってリーダーで読み取る。使用する周波数帯域としては,135kHz以下,13.56MHz,2.45GHzなどがある。内部には電波を発するためのコイル式のアンテナがあり,リーダー/ライターと一定の距離まで近付くと,コイルに電流が流れて半導体チップが動作する。情報を書き込むこともできる。

金属に強いRFタグを開発

 在庫管理が主な用途だったRFタグだが,新たな利用の形態も生まれてきている。その一つが,家電製品のリサイクルである。製品の出荷時に,材質情報などを記録したタグをメーカーが埋め込んでおく。使用段階で修理などが発生した場合は,その内容をタグに書き込む。そして製品が廃棄されたとき,再商品化施設でタグを読み込めば,各部品の材質が一目で分かる。

 同じようなことは,従来から使われているバーコードでも実現できる。しかし,バーコードは記録できるデータ量に限りがある。また,家庭で長期間にわたって使用される中で汚れてしまい,データが読み取れなくなる危険性も高い。変更があったときにデータの書き換えも容易でない。「RFタグは,こうした点でバーコードよりも優位」(デンソーウェーブIDソリューション事業部技術部の寺浦信之主幹)だと言う。

 ただし,RFタグには弱点がある。無線通信をするため金属の影響を受けやすいことだ。家電製品には金属が多く使われているため,これは大きな問題となる。そこで三菱マテリアルが金属の影響を低減させる素材を開発し,金属に貼り付けても問題なく読み書きできるRFタグができあがった。

リサイクル効率の向上を実証

 このタグを使って,2003年1月30日,日本自動認識システム協会の主催でリサイクルの実証実験が実施された。政府が主導している産官学共同プロジェクト「ミレニアム・プロジェクト」の一つとして,2000年から3年計画で進められてきた取り組みだ。今回の実験でプロジェクトの最終成果が示された。

 実験場所には,実際の再商品化施設である東日本リサイクルシステムズが選ばれた。実験のために試験的に情報を詰め込んだRFタグを使った。使用した周波数は125kHz,格納できる情報量は128バイト。タグにはメーカーやフロンの種別,各部品の位置と材質などの情報を格納し,冷蔵庫の上部に貼った。これをリーダーで読み取る。

 実験では,再商品化施設での業務の四つうちの二つにRFタグが使われた(図1[拡大表示])。四つとは,(1)家電製品を種類ごとに仕分ける,(2)部品を分解し分別する,(3)筐体を粉砕する,(4)破砕片を素材ごとに回収する,である。このうち,今回の実験が関連するのは(1)と(2)だ。

 まず,運ばれてきた冷蔵庫に解体作業員が読みとり装置を近付ける(図2[拡大表示])。すると,2台用意された大型モニターに製品の情報が瞬時に表示される。最初のモニターには冷蔵庫を仕分けるために必要な情報が映し出される。これを見て,冷蔵庫の扉にその種類をマーカーで記入する。これが(1)の作業である。次は(2)に移る。二つ目のモニターを見て,冷蔵庫の部品を分解し,分別する。作業員はモニターを確認しながら,二つの作業を進めていく。

図1●リサイクルの流れ
消費者が購入した家電製品が不要になると,小売業者がそれを引き取って指定引き取り場所に移す。そこから再商品化施設に運ばれ,解体された後リサイクルに回される。
 
図2●実証実験の様子
冷蔵庫に貼られたRFタグを小型の機器で読み取ると,内部に書かれた情報が二つの大型モニターに表示される。作業員はそれを見て,仕分け(図1の(1))と解体(図1の(2))の作業をする。仕分けは,冷媒フロンや断熱材フロンの種類ごとに実施される。右側のモニターに,仕分けに必要な情報が表示される(c)。解体時に使われるのは,冷蔵庫のどの部品がどこにあり,その素材が何であるかという情報(a)。従来は分からなかった樹脂部品の素材も分かるため,リサイクルできる部品の数が増える。

 この実験で明らかになった成果は三つある。一つは,作業の効率が上がったことだ。これまでは,内部に貼られた表示を見て,部品の材質を判断する必要があった。冷蔵庫ではこの表示がカビなどで見えにくい場合もあり,判別に手間取ることも多かった。タグでこれを読みとれば,時間が短縮できる。

 二つ目は,リサイクル率の向上。冷蔵庫には,卵ケースや野菜室などに樹脂の部品が多く使われている。しかしその樹脂がどんな種類のものなのかは表示がなく,これまでリサイクルに回すことが難しかった。タグにこれらの情報を書き込んでおけば,樹脂もリサイクルに回せるようになる。実際,この実験でリサイクル率は8%向上した。

 最後は,間違いが減ったこと。製品の表示が見にくかったり,表示がない場合など,作業員が長年の勘で材質を判断する場合がある。こうした判断方法では間違いが避けられない。メーカーが出荷時に書き込んだタグの情報を利用すれば,正確に判断できる。

家電メーカーの足並みは揃うか

 今回の実験では,リサイクルに利用する情報はすべてタグの中に書き込まれた。しかし,タグに書き込める情報量が限られる場合は「製品の情報はサーバーに格納しておき,タグにはID番号だけを入れるモデルも考えられる」(寺浦氏)。一つひとつのタグに固有のID番号を振っておき,それを基にしてサーバー上のデータを参照する。部品に変更があった場合は,タグの中身を書き換えなくてもサーバーの情報だけを更新すればよい。

 ただし,RFタグを使って家電製品の個体識別をするのは,それほど簡単ではない。各家電メーカー間でタグの仕様を統一しなければ,このシステムはうまく機能しない。再商品化施設では,複数のメーカーの製品を扱うからだ。

 つまりこのシステムを実用化するためには,家電メーカーが足並みを揃えて,RFタグの物理的な仕様と,内部に格納するデータの形式を詳細に決めることが必要である。また,ID番号を基に製品の個体認識をする場合は,メーカー間でID番号が重複しないようにしなければならない。この部分のルール作りも不可欠になる。

 現在,家電製品メーカーの業界団体である家電製品協会では,RFタグの標準化に関する作業班を設けて議論を進めているという。この団体には,国内の主要な家電メーカーのほとんどが参加している。そこでの議論が,実用化の時期を決めることになりそうだ。

(八木 玲子)