ローソンチケットは,コンサートなどのチケットを予約する自動音声応答システムをLinuxを用いて構築した。従来全国6カ所に散らばっていたセンターを1カ所に集約でき,運用コストを大幅に削減できた。

写真1●ローソンチケットのWebページ
チケットはWebサイト上からも予約できるが,今回開発したシステムはこの画面を用いず,プッシュホンなどを用いた自動音声応答システムである。
図1●音声応答システムの構成
Loppiやオペレータ経由のシステムとは中央サーバーのみで接続されている。

 コンサートや演劇,スポーツ関連などのチケットの予約・販売を行うローソンチケット(http://www2.lawsonticket.com/)は2003年9月,チケットを予約・販売する,新しい自動音声応答システムを本稼働させた(写真1[拡大表示])*1。数百台のLinuxサーバー・マシンに音声ボード経由で1000本の電話回線を接続した。新システムはこのほか,データベース・サーバー,音声サーバー,管理用コンソールなどから構成する。開発は,コムスクエア(http://www.comsq.com/)が担当した*2

 顧客がローソンチケットでチケットを予約するには,コンサートごとに異なる番号に電話をかけた後,ガイダンスに従ってLコード*3,公演日,座席種別,予約枚数,電話番号を順に入力していく。受け取った予約番号とチケットの引き換えは,ローソン店頭で行う仕組みだ。従来システムでも新システムでも,顧客の操作に違いはない。

 従来システムの問題点は,運用コストが多大なことだった。1回線ごとに1台のマシンとディスプレイを接続していた*4。さらに,マシンを集積したセンターを札幌から福岡まで,各地域の中核となる6都市に設けていた。「当社が取り扱うコンサートは月に数百ある。そのため,頻繁に音声データの登録作業が発生するが,従来のシステムではデータの事前登録ができず人海戦術となっていた」(ローソンチケット企画管理本部 システム企画管理部 マネジャーの高木弘司氏)。

 従来システムでは,データベースの概念もなく,チケット販売の案内を行う音声データを人力で1台1台フロッピー・ディスク経由で置き換えなければならなかった。これでは,非効率で人件費がかさむ。音声データの素早い差し替えができず,音声データの登録ミスなども発生しやすかった。そこで,新システムでは6カ所のセンターを1カ所に集約し,Webインタフェースを用いて音声登録・編集ができるようにした。

 データを集中管理するようにした結果,チケットを大量に予約し,転売する顧客を浮かび上がらせて,不自然な注文を断ることができるようになった*5。さらに,不正行為の発生を抑えるため,あらかじめ人気が出ると分かっている興行については,新たに可能になったクレジット決済を必須にし,予約時に支払いを求めるようにした。

信頼性からLinuxをサーバーに採用

 「電話回線と直結するCTI*6サーバーにLinuxを用いたのは,Windows NTベースのサーバーよりも信頼性が高いことが確認できたためだ」(コムスクエア ITコンサルティング・グループ システムプラニング担当マネージャーの仁田一郎氏)。コムスクエアはこれまでWindos NTベースの音声応答システムを構築してきたが,今回は音声ボード*7のLinux対応を受け,ローソンチケットにLinuxシステムを提案した。「この規模でLinuxを用いた音声応答システムは他に例がない」(仁田氏)。

 音声応答システムは,Webシステムと異なり,アクセスするユーザーが最大でも電話回線数に限られる。そのため,最大負荷が予想しやすい。しかし,このチケット予約システムでは,いったん電話がつながったら絶対に処理中に切れてはいけないという要求があった*8。チケットの予約は,金曜日の夜や土日が多い。時間帯では10時から11時,19時から20時に集中するという。この時間帯には,1000回線すべてが埋まる事態が頻発する。「チケット販売のフロントとなる音声応答サーバーの停止は,絶対に許容できない。そうするとWindowsではなくUNIXになるが,コストを考慮してLinuxを選んだ」(高木氏)。

 システムのテストでも,思い切った決断をした。開発中のシステムをサザンオールスターズのコンサート予約に投入したのだ。「システムの問題点は小規模なテストでは見えにくい。24時間265日のシステムは耐久レースそのもの。一気に負荷をかけて能力の上限を見極めたかった」(ローソンチケット取締役 企画管理本部 本部長の久野好彦氏)。

 テスト結果から得られた課題,そしてその解決法をシステムに反映させることで,安定性や堅ろう性が高まったという。

Loppiなどとは異なるシステム

 システム構成を図1[拡大表示]に示した。音声ボードが接続されたCTIサーバーと音声サーバーがLinuxベース*9である。

 今回構築したシステムの外部にある中央データベースには,すべての公演データ,会場ごとの座席の構成,顧客データなどが格納されている。在庫管理も行う。この中央データベースから,会場データなどを夜間バッチを用いて切り出し,本システム内のデータベース・サーバーに転送している。チケット販売時にはデータベース・サーバーから中央データベースにリアルタイムに販売データを送る。

 死活管理をしており,データベース・サーバーが故障した際は,CTIサーバーだけで動作が可能である。さらに特定のCTIサーバーの故障時には,隣接のCTIサーバーに処理を引き継げるようにした。開発言語は,サーバー上で動作するデーモンがC,バッチがPerlである。管理用コンソールの画面はPHPで生成した。データベースにはMySQLなどを用いた。

 なお,ローソンのLinuxシステムとしては,既に店内に配置された多目的端末Loppiのサーバーが有名だが,LoppiやWebを用いたチケット販売システムは今回のシステムと並列に動作しており,相互のやり取りは発生しない*10

(畑 陽一郎=hata@nikkeibp.co.jp)