オープンソース・ソフトウエアのソースコードを改変したりその一部を利用したりする際には,そのライセンスに対する理解が欠かせない。GPL(General Public Licence)では,ソースコードを改変した場合,他社にバイナリを配布する際ソースコードも入手可能にしておかなければならない。またBSD Licenceの場合,ソースコード公開の義務はないが,ソフトウエアを使用していることを明記しなければならない。ソースコードにオープンソース・ソフトウエアのコードが含まれているかどうか検査するASPサービス「ProtexIP」を提供している米Black Duck Software CEO 兼社長 Douglas Levinに,欧米での状況について聞いた。(聞き手はIT Pro編集 高橋信頼)

――米国で,オープンソース・ライセンスに関する訴訟は起きているのですか。

Douglas Levin氏
 いくつかの問題が起きています。オープンソース・ライセンスに直接関連するもの,間接的に関連するものがあります。直接関連するものは,米Cisco Systemsであった問題(編注:Ciscoが買収したLinksysがルーターにLinuxを使用していたが,ソースを公開していなかった。2003年にソースコードを公開して解決した)や,スウェーデンMySQLと米Progress Softwareの間の訴訟(編注:MySQLがGPLで配布したソフトウエアをProgress Softwareが製品に使用したが,ソースを公開していないとして,MySQLがProgress Softwareを訴えた。2002年に和解で決着)などです。ちなみにSCO Groupによる訴訟の主な部分は,SCOとIBMの間の契約に関するもので,オープンソース・ライセンスに関するものはごく一部です。

 ドイツでは,英語で書かれたGPLに,ドイツで強制力があるかどうかを判断する訴訟の判決が最近ありました。一審の判決は「強制力がある」というものでした。判例が出たことで,他の国での判断にも影響があるでしょう。

 カリフォルニア州では,10件の訴訟が裁判所外で和解しました。GNUソフトウエアを開発しているFSF(Free Software Foundation)や,Apache Web ServerをASF(Apache Software Foundation)が,企業に対し「オープンソース・ソフトウエアを製品に利用しているが,ライセンスを侵害している」というレターを企業に送ったものです。和解条件は公開されていないので,どのように決着したのかは分かりません。(編注:GNU GPLでは,ソースコードを改変した場合,バイナリを配布する際ソースコードも入手可能にしておかなければならない。またBSD Licenceの場合,ソースコード開示の義務はありませんが,著作権表示を明記しなければならない)

――なぜ侵害していることがわかったのでしょう。

 ある組み込みシステムの場合は,リバース・エンジニアリングにより判明しました。プログラムをリバース・エンジニアリングにより解析したところ,オープンソース・ソフトウエアのコードが含まれていることがわかりました。

 もう一つは内部告発です。企業のエンジニアがFSFやASFに「この会社はライセンスに違反している。オープンソース・ソフトウエアのコードを利用して製品を作っていながら,コードを公開していない。あるいは,オープンソース・ソフトウエアのコードを使用していることを明記していない」というメールを送ったのです。ニュース・サイトのSlashdotに投稿して告発したというケースもあります。

――ソースコード開示の義務が生じる以外の影響はあるのですか。

 訴訟ではありませんが,こんな例もあります。

 IBMは2003年,グリッド・コンピューティング技術のThink Dynamicsを買収しました。当初買収金額は6500万ドルで交渉が行われていましたが,最終的に4800万ドルになりました。その理由は,Think Dynamicsのソフトウエアに多くのオープンソースのコードが使用されていたからです。IBMがThink Dynamicsのコードを調べたところ,100近いインスタンスにオープンソースのコードが使用されていました。オープンソースのコードはフリーです。そのことが,買収金額が下がった理由になりました。