巨大オープンソース・プロジェクトThe Apache Software Foundationの共同創設者であり初代PresidentであるBrian Behlendorf氏が,オープンソース・プロジェクトを支援する組織OSCJ.net(関連記事)設立のため来日した。Behelendorf氏は現在The Apache Software Foundationの理事を務めるほか,ソフトウエア開発環境を提供する企業米CollabNetを設立し,そのCTO職にある。同氏にオープンソース・プロジェクト運営とビジネスのかかわりについて聞いた。(聞き手はIT Pro編集 高橋 信頼)

――The Apache Software Foundationを創立されました。

Brian Behlendorf氏
 我々は1995年,Apacheプロジェクトを立ち上げました。当時普及していたNCSA httpdがメンテナンスされなくなり,必要に駆られてユーザーである自分たちでApache WebServerとしてメンテナンスと開発を行うようになりました。

 現在,Apacheはインターネット上での標準のWebサーバーとなっています。我々は幸運でした。適切な時期に,適切な活動を行うことができました。

 今Apacheには,Apache Web ServerやJakartaを始めとする約30のトップ・レベルのプロジェクトがあり,さらに各プロジェクトのサブ・プロジェクトがあります。コミットしている開発者は,The Apache Software Foundation全体で約500名います。

――The Apache Software Foundationの意思決定はどのように行われていますか。

 理事会(Board of Directors)がありますが,意思決定はトップダウンに行われるのではなく,メーリング・リストなどによる徹底した議論が,合意に達するまで行われます。コンセンサスが常に最も重要です。

――The Apache Software Foundationのような巨大なソフトウエア・プロジェクトを運営する上で困難なことは何ですか。

 ひとつは,スタッフが全員ボランティアであり,常勤のスタッフがいないことです。The Apache Software Foundationはボランティアによる運営方針を採っています。サーバーのトラブルなど,素早く対応する必要があることもあり,悩みでもあります。

 もうひとつは,ソフトウエアの品質を維持することです。The Apache Software Foundationのソフトウエアはインターネットや業務システムの中核で利用されており,極めて高い品質が要求されます。

――多くのメーカーが彼らのビジネスのためにThe Apache Software Foundationにコントリビュートしており,一方で多くボランティア開発者が活動しています。両者のコンフリクトはありませんか。

 ビジネスを目的とする開発者は安定性を求めますし,知的な興味を動機とする開発者は新しい技術を試そうとする,といった方向性の違いはあります。しかしその意思決定は技術的な判断基準のもとで,先ほどお話したように多くの議論を積み重ねることで合意に至るようにしています。

――あなたがCTOを務めているCollabNetのビジネスはどういったものですか。

 ネットワーク上で開発者が協調してソフトウエア開発を行うための開発環境を提供することです。バージョン管理やメーリング・リストによる情報交換など分散ソフトウエア開発に必要な機能を統合して提供しています。

 米Hewlwtt-Pacjardや米国国防総省,米Sybase,米BEA Systems,米Sun MicrosystemsなどのIT企業や金融機関などが顧客です。HPは約6000人の社内エンジニアと約2000人の社外エンジニアが我々のサービスを利用しています。SunはJavaデベロッパを支援するjava.netで我々のサービスを利用しています。

 オープンソース・ソフトウエアのホスティングも行っています。CollabNetのサービスはオープンソース・ソフトウエアを利用して行われており,OpenOffice.orgなどのオープンソース・ソフトウエアをホスティングしています。

 日本では2005年4月,オープンソース・プロジェクトを支援する組織OSCJ.netが設立されました。CollabNetはOSCJ.netに協力団体として参加し,OSCJ.netが支援するオープンソース・プロジェクトに無償で分散開発を提供します。