3月2日,「MIRACLE Technology Conference 2005」に出席するために品川に向かった。

 このようなイベントに参加するのはずいぶん久しぶりだ。たまにはこのように情報収集をしないと皮膚感覚が鈍ってしまう。忙しいとどうしても内にこもりがちだが,世間は想像以上に早く動いていることを忘れないようにするのも,変化の早いIT業界で生きていくには必要不可欠だ。興味のあるイベントなどがあれば,是非忙しさの合間を縫ってでも時間を作って参加してみてはどうだろうか。

 今回,会場で最も印象的だったのは,参加者層の変化だ。

ビジネス・パーソンが圧倒的多数

 以前であればこの手のLinux/オープンソース関連のイベントに行くと見回せば知り合いばかりという状況も珍しくなく,Linux市場が成長している実感が今一つ湧かなかった。

 しかし今回は参加者数も多く400席近くが満席であった。その参加者もスーツをきっちり着込んだビジネス・パーソンが圧倒的多数を占めていた。平均年齢も40歳台ではなかっただろうか。これからLinuxやオープンソースを使ったシステム構築を始めようとしている雰囲気の参加者も多く見受けられた。

 Linux/オープンソースのビジネスも黎明期から数えれば5年近く経つ。最近ではやや停滞感を感じたこともあったが,まだまだ裾野は広げられるということであろう。

主要な商用ディストリビューションがすべてカーネル2.6へ移行

 基調講演では,ミラクル・リナックスが中国Red Flag,韓国Haansoftと共同で開発しているディストリビューションの新バージョン「Asianux 2.0」の発表が行われた。Asianux 2.0は,その目指すところとして「RAS(信頼性/可用性/拡張性)の強化」をあげている。リリースは7月とまだ先だが,日中韓の企業が合同で開発を行っているAsianuxがカーネル2.6を採用するという点が最も重要なポイントだ。

 これにより,先日発表されたRed Hat Enterprise Linux 4と合わせて,主要な商用ディストリビューションのほぼすべてがカーネル2.6を採用することになり,今後はカーネル2.4からの移行が進むだろう。反面,システムのバージョンアップのタイミングは重要な課題となる。また,カーネルに関する知識もアップデートが必要になり,エンジニアとしては対応を迫られることになる。

 Asianux 2.0は,その目指すところとして「RAS(信頼性/可用性/拡張性)の強化」をあげている。ハイエンドな基幹業務系システムで要求されるポイントとなるが,その実装方法についてはOSDLの定める「キャリアグレードLinux」(CGL)に沿う形になるという。

「Linuxを採用した理由はコストではない」

 カンファレンスでは,日経Linux手嶋透編集長の司会による,導入ユーザーへの公開インタビューも行われた。沖電気工業でコールセンター・システム,サイバーマップ・ジャパンで地図サイトMapion,ドワンゴでオンライン・ゲームを開発している担当者がLinuxを採用した理由や,導入してみた評価について語った。

 現場の本音を聞くことができたと感じたセッションだったが,印象に残ったのが「Linuxを採用した理由は主にコスト面の有利さか?」という質問に対する回答だ。

 答えは「Yes」「No」半々に分かれた。

 「No」とした回答者の回答は,理由は導入コストではなく,問題が発生した場合にオープンソースだから最悪の場合ソースコードまで追いかけて調べることができること,というものだ。

 確かに,小規模なワークグループ・サーバー・レベルでの利用であればOSのコストは無視できないが,中規模,大規模のシステムとなればOSのコストは全体から見れば微々たるものだ。むしろ運用コストの問題が前面に出てくる。そして運用コストとは,ただ単純なシステム管理のコストだけでなく,障害発生時にその問題をどのようにして解決できるかによって大きく左右される。障害にどのレベルまで対応するべきか,そしてその担い手は誰なのか。こういった,運用コストだけでなく可用性に関わる問題は,システムを構築する時点で詰めておく必要がある。

 その意味で,「ソースコードを調べ,修正できる」という,オープンソース・ソフトウエア本来のメリットが机上の空論ではなく,事例の現場で明確に語られるようになった。これも大きな変化といえるだろう。

 直接間接に色々と課題を与えてくれる内容であり,多少無理をしてでも参加した甲斐があった。Webや雑誌の情報だけでなく,空気を感じるためにも是非色々な機会をとらえて出かけてみてほしい。

宮原 徹(Toru Miyahara)
■著者紹介

宮原 徹(みやはら・とおる)氏

株式会社びぎねっと 代表取締役社長/CEO。1994年~99年,日本オラクル株式会社でデータベース製品およびインターネット製品マーケティングに従事。特に,日本オラクルのWebサイト立ち上げ,および「Oracle 8 for Linux」のマーケティング活動にて活躍。2000年,株式会社デジタルデザイン東京支社支社長兼株式会社アクアリウムコンピューター代表取締役社長に就任。2001年,株式会社びぎねっとを設立し,現在に至る。1972年,神奈川県生まれ。中央大学法学部法律学科卒。Linuxやオープンソース・ソフトウエアのビジネス利用を目指したProject BLUEの設立をはじめ、様々なオープンソース・コミュニティの活動に従事している(宮原氏インタビュー「会社に閉じこもらず交流しよう」)。